お金を使わないドイツ
私がドイツに拠点を移してからもうすぐ10年が経つが、「ドイツにいる方が、日本にいるよりお金を使わないな」と思うことがよくある。家賃や光熱費といった一つ一つの出費額が低いということではなく、お財布を出す機会が少ない、という意味である。
このテーマについては、同じくドイツ在住の日本人と話すことが度々あるが、同じ感覚を持っている人が多いと思う。なぜドイツと日本では、お金の使い方が変わってくるのか。この記事では少し掘り下げて考察してみたい。
土曜日と日曜日の違い
まずは週末の過ごし方。日本であれば、学生であっても働いている人であっても、家族や友達と出掛けるのは週末が中心になるだろう。
私自身、日本で会社員だった頃は、週末にずっと家にいた記憶があまりない。バレエのレッスンを受けているか、ショッピングに行っているか、友達と出掛けているかのどれかだった。
もちろんドイツでもショッピングを楽しむことはあるが、それは土曜日に限定される。というのも、飲食店以外のお店は、日曜日と祝日は閉まってしまうからだ。ドイツでは土曜日は「用事を済ます日」になってしまうことが多い。スーパーやドラッグストアも日曜日は閉まってしまうので、食料品や日用品は土曜日のうちに買っておかなければならない。
土曜日に用事や買い物を済ませたら、日曜日は何をするのか。伝統的には「休息する日」で、お金を使うような機会はあまりない。家でゆっくりしたり、散歩したりする。
この「散歩する」というのは多くのドイツ人に習慣づいていて、私もドイツに来てから意識的に行うようになったことの一つだ。住宅の気密性が高いこともあって、ずっと家にいると「新鮮な空気(frische Luft)」 にあたりたくなる。

日曜日はミュージアムは開いているので、ゆっくりミュージアムへ行って、その後にカフェでお茶でもするのも定番。ミュージアムの入館料は有料のことも無料のこともあるが、どちらにしても高額ではない。
週末に友達と会うときには、個人的な感覚だが、レストランやカフェで外食する場合と、どちらかの家で集まる場合が半々くらいである。言い換えれば、日本と比べると、誰かの家で集まることがずっと多い。
招待した方が食事を用意したり、各自が何か持ち寄ったり、一緒に料理したりと色々なパターンがあるが、どちらにしても外食するのと比べてずっと安上がりである。人件費が異様に高く、更にチップも渡すドイツでは、外食すると一気にエンゲル係数が上がってしまう。

飲み会が少ない
それでは、平日はどうかと言えば、私は週末と比べて更にお財布を出す機会が少ない。職場にも家からお弁当を持って行っているので、お金を使う機会があるとすれば、時々同僚とランチに出掛けるか、終業後に友達と食事に行くときくらいである。
日本で会社員だった時は、よく仕事終わりに部署の上司や先輩と食事か飲み会に行っていた。同期メンバーと集まることも多かった。この、仕事とプライベートの境目にあるようなイベントは、積み重なると一定の出費となる。
一方で、仕事とプライベートがきっぱり分かれているドイツでは、上司と一緒というのは言わずもがな、同僚と飲みに行くということも頻繁ではない。私自身、昼休みや勤務時間中に話す機会があるので、わざわざ平日の夜に仕事仲間と出掛ける必要性をあまり感じなくなった。
夏の間はセルフサービスのビアガーデンで仲の良い同僚と集まることがあるが、それも深夜まで飲み食いするというよりは、ビールを何杯か飲んでお喋りして解散、ということが多い。

ずっと同じ服を着ている
今振り返ってみれば、私は日本で会社に勤めていた頃は、月に一回ほどショッピングに出掛けていた。職場に着ていくビジネスカジュアルの洋服、靴、バッグなどでおしゃれを楽しみたいと思う気持ちや、ずっと同じものを着ているわけにはいかないという意識があった。週5日勤務であれば、季節に合わせて、5通りの組み合わせの服を用意できるように考えていた。
私は元々流行に関心がなく、「流行っているから」というよりは「自分らしいか」「使いやすいか」という観点で洋服や小物を選んでいたが、流行に敏感な人であれば更に買い替えのペースは早かっただろう。
それがドイツに来てからは、洋服などを買う機会が一気に減り、今まで着ていたものが古くなりすぎたなど、買い替えの必要に迫られたときくらいになった。理由は単純で、周りの人たちも、いつも同じ服を着ているからである。洗濯のペースが間に合うくらいの枚数があれば、それで十分と思うようになった。
ドイツにいると、各自が自分の好きなものをずっと着ているので、「流行り廃り」という感覚を忘れていってしまう。特にベルリンの人たちは見た目よりも機能性を重視しているところがあり、「おしゃれ!」と思う人を見かけることは本当に稀(時々いるが、話している言葉を聞くとドイツ語ではないことがほとんど)。
ベルリンでは、普段からアウトドアブランドのパーカーやリュックサックを使っている人が多い。そして寒くなってくると、みんな黒のジャケットやコートばかりを着ているので、どこを見渡してもカラスのように黒い人たちのかたまり…という風景になる。

また、これはドイツ在住者あるあるだと思うが、お化粧もだんだん適当になっていく。私のドイツ人の女友達も、しっかりメイクをするのはパーティーに呼ばれているときくらいで、普段はほぼノーメイク、という人が多い。
日本であれば、職場に行くのにも、近所を歩くだけでも、女性はいわゆる“マナー”としてお化粧すべきという雰囲気があるので、メイク道具も揃えなければならない。
もう一つ、日本とドイツの違いとして挙げられるのは、世界的な高級ブランドを身につけることがステータス、という感覚がドイツではないことだ。
日本だと、ルイ・ヴィトンであったりプラダであったり、ブランド品の小物を持つというのはある意味で普通だが、実際には不思議な文化だなと日本を離れてから思うようになった。例えばお金のない学生や新入社員であっても、がんばって貯金して数万円から数十万円のものを買うというのは、きっと多くのドイツ人にとって理解しがたい現象だろう。
ドイツのおしゃれ事情について一言補足しておくと、国内でも地域差がある。上述したように、冬になるとベルリンでは全身真っ黒な人たちが大量発生するが、そこから出張でミュンヘンへ行ったところ、雰囲気が全く違って驚いたことがある。トレンチコートに華やかな色のマフラーを巻き、少しヒールのある革のブーツを履いて颯爽と歩く女性を見たときには、ドイツにいることを忘れそうになった。

すぐ隣がオーストリア、その先がイタリア、という地理的な影響もあるのでしょうか
安上がりにすむ秘訣
その他、日本にいるときよりも頻度は増えているけれど、かかる費用が少ないな、と思う場面もある。
例えば、旅行。私は度々ドイツ国内で他の町に遊びに行くことがあるが、あまりホテルに泊まったことがない。近くに友人知人がいれば家に泊めてもらうからである。
個人的な感覚だが、ドイツの方が誰かを自宅に泊めることのハードルが低いと思う。それは精神的なものだけではなく、日本と比べてアパートや家が広く、ゲストルームがある確率が高いということもあるだろう。日本であれば、「泊まってもらって大丈夫だよ」と友人や親戚に言ってもらっても、そうは言ってもお邪魔になるし…と遠慮してホテルを取ることも多い。
また、私はドイツに来てからの方がバレエ公演やコンサートに気軽に行っているが、クオリティが高くても、日本と比べて値段は安い。例えばベルリン国立バレエで言うと、一番良い席であっても100ユーロ前後で、50ユーロくらいでもそこそこ良い席から観られる。
また、以前「ベルリンのバレエレッスン事情」という短いブログ記事でも紹介したが、バレエのレッスンも安い。ベルリンでは90分のオープンクラスを10ユーロくらいで受けられるところも多い。日本では2000円以下というところはまずないのではないだろうか。

ドイツではあまり購買意欲を煽られることがありませんが、一時帰国すると、その分あれもこれも買いたくなってしまうことがあるのはちょっと注意です
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