日本と真逆!ドイツの年越し

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静かな日本、うるさいドイツ

大晦日」「元旦」と日本語で聞くと、思い浮かべるのは、日本の静かな年末年始である。家族と紅白歌合戦でも見ながら、年越しそばを食べ、除夜の鐘を聞き、初詣に行く。子どもの頃は、家族や親戚からもらうお年玉が楽しみだった。

それが、ドイツに拠点を移してからはイメージが一転。「大晦日」といえば一年で最も危険な日、「元旦」といえば街中でその名残を見たり悲惨なニュースを聞いたりする日となった。

というのもドイツでは、年末が近づいてくると、ロケット花火爆竹が専門店やスーパーマーケットで販売され、年越しに合わせて自分で打ち上げることが許されている。

「花火」のドイツ語を辞書で引くとFeuerwerkと出てくるが、これは大掛かりで綺麗な打ち上げ花火のこと。個人が楽しむ、爆発音がメインの花火Bölllerと呼ばれている

個人で花火をするのなら、ひと気のない空き地などで行うのが普通…と思いきや、ここではそういう気遣いはない。住宅地や、街中や、人通りの多い広場でもガンガンと火が点けられる。当然ながら、怪我人が続出

住宅の間の道路で空に向かって打ち上げられているロケット花火
友人の家の裏にて。近所の人が打ち上げ花火をしていた

そもそも非常にうるさい年越しの仕方なのに、近年はエスカレートして、警備にあたっている警察官や消防隊員に対してロケット花火が打ち込まれたり、瓶が投げつけられるなどの暴動が多発している。2024年から2025年にかけての年越しで、ドイツでは5名が死亡した。

ベルリンでは、一般の住宅地にロケット花火や小型爆弾が投げ込まれる事件もあった。40の住居が住めない状況となり、その他にも違法行為で街中で取り押さえられた人は約400人にのぼるという。

なぜ騒動が起きるのか

私はドイツ南西部のハイデルベルクにいた12年前、一度だけ興味本位で大晦日の夜に街中を歩いてみたことがある。当時は今ほど問題視されていなかったものの、至る所で爆竹が突然鳴り(間近だと本当に耳がおかしくなりそう)、ロケット花火が脇をすり抜けていくこともあった。

街灯に照らされた暗い街並みと、川の対岸に見えるカラフルな花火
ネッカー河にかかる橋が見え、旧市街が近づいてくると、空にはあちらこちらに花火が

一緒に歩いていた日本人の女友達は、私よりも音に敏感で、何かが爆発する度に「わぁぁ」と私にしがみつく。もう二度と大晦日に街中には出まい、と一緒に誓ったのだった。

ハイデルベルクのようなこじんまりした町ですら身の危険を感じたのに、都市部での騒ぎの大きさたるや…。私はベルリンに引っ越してからは、あまりに物騒なので、街中で年越しをしたことはない。アパートにいても、0時が近づくにつれて、ドン、バン、ドカン、と周囲から爆発音が聞こえてくる。

普段は落ち着いた印象のあるドイツで、なぜこんな習慣になってしまったのか。実はうるさい音にこそ意味があり、「悪」を追い払うことができると中世の頃から信じられていたそうだ。

考えてみれば爆竹は中国発祥。やはり元々は悪鬼や疫病を駆逐するためだそうです。世界中で見られる風習なんですね

それにしても、大晦日に遭った危険な目に関するエピソードは、枚挙に暇がない。年明けに職場に戻ると、同僚との会話もそれで持ち切りになる。

バーで飲みながら年越しして、外に出たら、近くのアパートのベランダからこちらを目掛けてロケット花火を打たれた

街中ですごい音がして振り返ったら、目の中に花火の欠片が入ってしまい、病院に行く羽目になった

などなど。他の同僚が飼っているは、毎年大晦日になると爆発音に怯えてしまい、かわいそうにバスタブに隠れてブルブル震えているという。

ベルリンでは、一般人(18歳以上のみ)の打ち上げが許されているのは、12月31日18時から1月1日7時まで。違法だが、大晦日を待てずにフライング気味に打ち上げる人や、年が明けてからも余った花火を打ち上げる人もいる。

年始に街中を歩くと、花火の残骸を至る所で見掛ける。ゴミも出るし、爆発音による野生動物への悪影響も指摘されている。

こんな危険で環境にも悪い習慣は禁止すべきと考えているドイツ人も当然ながら大勢いて、オンラインでは禁止を求める署名運動が盛んだ。ドイツ語の新聞で見た情報だが、年越しの花火で怪我をする人の97パーセントは男性だという。確かにベルリン在住の私も、騒動を起こしているのは一部の若い男性たち、というイメージがある。

しかし、花火産業というのはかなり大きな経済的影響力を持っているらしく、一筋縄ではいきそうにない。報道を見ていると、「死傷者が出ているのは、主に違法な手製の花火や爆弾などが原因」と主張しているようだ。確かに、既製の花火は正しく使用すれば危険ではないのだろうが、他人に向けて打つ人が存在するのも事実。

一般向けの花火も決して安くはない。毎年数万円規模で買い込むという人もいる。それから、これはベルリンなど東部の町の特徴かもしれないが、花火が年中販売されているというポーランドで安く買ってくる人も多い。

並んだ家の向こう側の空に上がっているカラフルな花火
住宅地にて、誰かが見応えのある打ち上げ花火を上げていた。相当お金が掛かっている

“普通の”ドイツ人の年越し

街中の馬鹿騒ぎを避ける“普通の”ドイツ人たちは、どのように大晦日を過ごすのか。

クリスマスと大晦日の祝い方は、ドイツと日本では逆だと言ってもよい。ドイツでは、クリスマスは家族と静かに、大晦日は友人たちと賑やかに祝う。年越し前の定番の食事といえば、ラクレットチーズフォンデュ。地域によってはを食べたり、ジャム入りの揚げパンを食べるという風習もある。

長テーブルに並んだラクレットのプレートと、野菜やソーセージなどの具材と大量のチーズ
ドイツ人の友人の家でラクレットをした大晦日の様子

一人一枚のミニ鉄板を使うラクレットは、自分で手を動かさないといけないので、わいわいお喋りしながら食べるのにぴったり。日本でいうタコ焼きパーティーに近いかもしれない。

具材とチーズが溶けている小さな鉄板と木製のヘラ
具材の上にチーズを一枚のせて焼いてもよし、チーズだけ焼いてもよし

友人たちと夕方から集まっても、年越しまでには5~6時間ある。時間を持て余したら、ボードゲームカードゲームをしてもいいし、ブライギーセン(Bleigießen)という伝統的な遊びの占いをしてもいい。スプーンの上で火で炙って溶かした鉛を冷たい水の中に注ぎ、水の中で固まった鉛の形を見て、翌年の運勢を占うというもの。

あとドイツの大晦日に特有なのは、「Dinner for one」という、18分くらいの短いコメディ映画。1963年制作の白黒作品で、毎年大晦日になると何度もテレビで放送される。特に年配の人たちは、これを見ないと大晦日だという気がしないそうだ。

アドヴェント期間や大晦日の定番の飲み物といえば、Feuerzangenbowle (フォイアーツァンゲンボウレ)。香辛料や柑橘類を入れた辛口赤ワインを温めて、その上に円錐形の砂糖の塊を置き、ラム酒をかけてから火を点ける。

テーブルの上に置かれた鍋の上に、金属の棒で挟まれた円錐形の砂糖が横たわり、青い炎に包まれている
見ていても綺麗。溶けた砂糖が赤ワインに落ちていき、キャラメルのような風味が出て美味しい

日付が変わったら、スパークリングワイン(Sekt)でみんなで乾杯し、明けましておめでとう、と言い合う。フランスなどとは違い、ドイツではキスではなくハグするのが一般的。その後は三々五々帰路につく。前述したように街中はカオス状態なので、なるべく安全そうな道を選んで帰らなければならない。

おまけ:お隣のパリの様子

2024年から2025年にかけての年末年始、私は夫のベルリーナー・Dと、パリに住んでいる私の友人のアパートに泊めてもらっていた。友人はフランス人女性だが、「人が多いから大晦日は街中には出ない」という。

私とDは興味本位で街中に出掛け(大晦日の17時から元旦の12時まで公共交通機関が無料になる)、モンマルトルの丘でカウントダウンすることにした。

確かに押し合い圧し合いの大混雑ではあったが、ドイツと比べて格段に安全。というのも、個人の花火が禁止されているのである。パリ市が公式に打ち上げる花火が中心部であるだけ。

暗い中、混雑している高台
凱旋門の辺りで打ち上げられる花火を見ようと、モンマルトルの丘に集まった大勢の人

お隣の国、フランスでの年越しは平和だった。イギリスのロンドンでも個人の花火は禁止だそうだ。ドイツも早くその後に続いてほしいものである。

ちなみに、パリといえば、パリ・オペラ座バレエは大晦日にも公演を行なっている。チケットは普段と比べて割高ながら、幕間にはシャンパンとフィンガーフードが振る舞われ、贅沢な気分を味わえるそうだ。私は年明けの1月3日に『パキータ』を観にいったが、いつか大晦日公演も観てみたい。(ドイツではシュトゥットガルトバレエ団の『ドンキホーテ』を大晦日に観たことがあり、華やかな気分で一年を締めくくることができた)

個人的には、友人たちとホームパーティーをしたり、バレエを観たりして年越しするのが好きです。皆さんはいかがですか?

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