気にするポイントの日独比較

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ブックカバーから考える日独の違い

真面目で規律正しい、というイメージの日本人とドイツ人は、メンタリティが似ていると言われることも多いが、個人的には似ていない部分の方が多いと思う。日本は周りの目を気にする(良く言えば、よく気を遣う)文化で、ドイツは周りがどう思おうが気にしない(良く言えば、各個人の自由が尊重される)文化なのを考えると、むしろ真逆だと思うこともある。

それに加えて、日本とドイツでは、何かを恥ずかしいと思ったり、嫌だと思ったりするポイントが異なる。例えばドイツでは本にブックカバーをかける習慣がない。本を綺麗に保つためもあるが、どんな本を読んでいるか周りに見られるのが恥ずかしい、という感覚は日本独特なのだと思う。

面白いエピソードを1つ。私のドイツ人の友人Sは、大学の研究教育職に就いており、探究心が強いうえにお喋りなので、知らない人とでも気軽に会話を始める癖がある。ある時一緒に特急電車で移動していると、Sは自分の横に座っている女性が読んでいた本を見て、例のごとく声を掛けた。

面白そうな本ですね。『人間の性器の形について』?

その瞬間、私は色んな意味で吹き出しそうになった。教育者だけあって、Sの声がまたよく車内に通るのだ。私の動揺をよそに、本を読んでいた女性は顔を上げて、「面白いですよ。私は医療関係者なんですが…」といたって普通に笑顔で答え、その後下車するまでSと会話が弾んでいた。

日本であればブックカバーをかける、というよりも、そもそもそんな誤解を招きそうな内容の本を電車で読まないだろう。ちなみに、ドイツでは特定の車両を除いて電車内も通話OKなので、ごく個人的な内容の話を盗み聞きするかたちになってしまうこともある。

この記事では、こういった日常で見られる日独の違いについて考えてみたい。何を気にして、何を気にしないのか、意外なポイントが見えてきて面白い。

ファッションで気にするポイント

ドイツでは夏になると、急にスカートやワンピース姿の女性が増える。それも、かなり際どい丈のミニスカートの人も多い。理由は単純で、その方が涼しいから。逆に冬は、パンツスタイルの人ばかり。その方が暖かいから。合理的と言われるドイツ人らしいといえばドイツ人らしい。

青空の下、ワインを楽しむ薄着の人達
南ドイツ・ハイデルベルクのワイン祭りにて

トップスはTシャツやキャミソール1枚で、胸元やブラジャーの紐が見えていることは気にしない。何年もドイツで暮らしていても、私が未だに「わぉ」と思うのは、シフォンなど透けやすい生地のトップスでも1枚で着ていること。つまりブラジャーが丸見え(日本だったら絶対に何か重ね着するだろう)。ドイツ人の友人曰く、「涼しいのが一番!」…まぁ、それはそうだろうけれども。。。

ちょっと目のやり場に困ることがあるのは、女性だけではない。天気がいい日は、男性もカフェのテラス席で上半身裸でくつろいでいたりする。もし日本で誰かが急にTシャツを脱ぎ始めたら、不審者として通報されかねない。

私がコンテンポラリーバレエを習っている教室は、着替えスペースが男女一緒というのを前の記事でも書いたが、ドイツ人は肌を見せることにあまり抵抗がないと思う。ただ、夏になると急に露出度が上がるのは、意識的にセクシーにしようとしているよりは、「暑いから涼しい格好をしようとした結果」なんだろうな、という印象。

ファッションに関してもう1点面白いのは、日本人の友人とドイツでショッピングするとき。みんな、気に入った服やバッグを買うか迷った時に、こう自問する。「これ、日本に帰った時も使えるかな」。ドイツだったら、何歳の人がどんなに派手なものを身に付けていようと誰も気にしないのだが、ふと日本の基準を思い出して照らし合わせてみると、「これはアウトかもしれない」と我に返る。

舞台演出家で、私が文学面から脚本制作を手伝わせてもらっている友人Aさんは、可愛いハートのポケットが付いた赤いリュックサックを気に入って購入しようとしていたが、「いや、一時帰国中にも使えるものがほしいけど、これは日本で持っていたら私の年齢では不審者。。。」と結局思い留まっていた。

ベルリンのオペラ座前にて。青い水玉のコートにピンクのスーツケースを持ったAさんと、Aki
ベルリンのオペラ座前にてAさん(写真右)と。ドイツで買った水玉のコートも、日本ではかなり目立ったらしい

メイクで気にするポイント

次に、女性特有のポイントになるが、成人女性がすっぴんで出歩くのは恥ずかしい、という風潮がある日本と違い、ドイツでは普段はメイクしない女性も多い。もともと目鼻立ちがはっきりしているので、何かの機会でばっちりメイクしていると、かなりインパクトがある。

ハイデルベルク大学にいた頃、「日本ではメイクはエチケットの一種みたいなものなんだよ」という話を同級生達にしていたら、「じゃあ面倒くさいときはどうするの?」と聞かれたので、

近くのスーパーに行くくらいだったら、メガネとマスクで誤魔化したり?

と答えたところ、「いやいやいや、その方がよっぽど変でしょ」と全会一致で突っ込まれた。確かに、ドイツではマスクを日常生活で使う習慣がないので、尚更である。

一方で、やるときはとことんやる職人気質というべきか、ドイツでも最近流行り始めたハロウィンの時などは、カラーコンタクトを入れ徹底したメイクを施した若者達がうろうろしていて、ぎょっとした。日本のように可愛らしい小悪魔ではなく、ホラー映画に出てくるような、ゾンビっぽいメイクなのだ。

徹底しているのは女の子だけではない。テーマがファッションの方に戻ってしまうが、「誰がどんな格好をしていても気にしない」というのは本当なんだなぁ、と実感したときがある。

私が最初に住んでいた大学のシェアハウスに、考古学専攻で、趣味で小型のハープを弾いているドイツ人の男子学生がいた。穏やかな人で気が合ったので、彼が参加している『中世風バンド』の練習を時々見せてもらったりしていたのだが、ある休日の朝、彼がこんな格好で出掛けようとしていた。

中世風の衣裳で全身をきめた若い男性
すごいディテールの細かさ。思わず写真を撮らせてもらった

「えっ、いや、すごい似合ってるけど、その格好で出掛けるの?」とちょっと言葉を詰まらせた私に、「うん、そうだけど、なんで?今日は隣町で中世風マーケットがあるから、仲間と演奏するんだ」とハープを背負って、機嫌良さそうに電車で出掛けていった。もはやコスプレの域

音で気にするポイント

最後に、日本人が麺をすすって食べる音を欧米の人は嫌う、というのはよく聞く話である。それを不快に思うかどうかは個人差があるだろうが、確かにドイツでは食事中にあまり音を出さない。本場イタリアとは違って、ドイツではパスタをフォークとスプーンで巻いてから口に入れる人もよく見る(これは日本と同じ)。

ドイツ人は、風邪気味や花粉症の人が鼻をすする音も嫌う。しかし、音に神経質なのかというと、そういうわけではなくて、気にするポイントが違うだけ。なぜなら、部屋中に響き渡るほどの大きな音で、チーン!とティッシュで鼻をかむのが普通だからだ。私はドイツで暮らし始めた頃、「今の未知の音は一体!?」と思わず振り返ったことすらある。

また別のエピソード。ファッションについて興味深い対話をした、ドイツ人弁護士さんの一家は、私が初めて泊まりにいく前に、話題を増やそうと思って、日本のことを色々インターネットで調べてくれたそうだ。それで面白そうに訊かれたのが、「日本のトイレにはGeräusch-Prinzessinがいるんだって?」。

Geräusch-Prinzessin、英語風に言うと『ノイズ・プリンセス』。雑音のお姫様。…私は一瞬ぽかんとしたが、しばらく考えた後に気がついた。

音姫!?

確かにトイレ用擬音装置なんていうものは、ドイツで見たことがない。鼻をかむのと同じで、生理現象を恥ずかしがる発想がないのだろう。

こういった日本との違いは、ドイツだけではなくて、どの国・地域でも観察できると思うが、どうしてそうなのだろう?というところまで考察を深めようとしてみると、色々な気付きがあって面白いに違いない。

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