ドイツの分業の精神:メリットとデメリット

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たらい回しにされる理由

ドイツでしばらく暮らしていると、何か問題があって役所やカスタマーセンターに問い合わせたところ、たらい回しにあった、という経験がある人がほとんどだと思う。

私が直近で聞いたのは、日本人の友人Mさんの話。往復で予約していた航空券の復路に乗れないことが事前にわかり、変更不可なので無断で捨ててもいいのだが、キャンセル待ちの人がいるかもしれないという親切心から、日本へ発つ前にフランクフルト空港にてドイツの某航空会社にその旨伝えようとした。しかし以下のようにたらい回しにされる。

チェックインカウンターA「ここでは受け付けられないので、カウンターBで伝えてください」
→Mさん、カウンターBに行くもなぜか閉まっている
→仕方ないのでラウンジで時間を潰して1時間後に戻る
→カウンターB「ここでは受け付けられないので、本社のこの番号に電話してください」
→Mさん「いや、もう出発時間が迫っているので無理です」
→カウンターB「では日本に到着後、こちらの番号に電話を」
→Mさん「…もういいです……」

ドイツでありがちな話である。どうしてチェックインカウンターAからカウンターBに内線で聞いてくれなかったのか、カウンターBがMさんの代わりに電話してくれなかったのか、疑問に思うことばかりだが、ここでドイツ人達がよく口にする台詞を考えてみよう。

Das ist nicht meine Aufgabe.“「私の仕事(担当)じゃありません」って本当によく聞く

そう、この国の分業の精神は徹底している。自分の担当外の仕事はしてくれない。担当外の問い合わせをしてきたお客さんのために、気を利かせて、他部署に伝言してくれたり繋いでくれたりすることは滅多にない。「担当じゃないのでわかりません」と言われて終わるか、良くても、上記のように正しい(と思われる)問い合わせ先をくれるだけで、後は自分でやってね、というスタンスである。

職業上のメリット

一般的に残業がほとんど存在しないドイツ。有給休暇は全て消化が当たり前、風邪をひいたらそれとは別に傷病休暇も申請できる。日本と比べると格段に良く思える労働環境は、「短時間で良い成果を出せる人ことが優秀」という効率重視の考え方のおかげでもあるが、間違いなく分業の精神も影響している。担当外の仕事はバサッと切り捨てる姿勢はもはや潔い。余計な(少なくともそう思われる)案件には手を出さない。

2〜3週間の長期休暇に出る時には、代理の同僚の名前を一応残していくのだが、この同僚は本当に「話を聞いてくれるだけ」で、「担当が戻ってくるまでわかりません」と何もアクションを取ってくれないことがほとんど。それでも会社がどうにか回っていくのだから不思議なものである。

上司から何かを頼まれた時も、気を利かせて、頼まれた以上のことをプラスでやるのは、日本だったら評価されるだろうが、ドイツでは気をつける必要がある。余計な労力と時間を掛けた、と思われる可能性があるので、事前に確認した方が無難だろう。

サービスを受ける側からすると、何のメリットもないように思われる分業制だが、日本と比べて部署内での連絡や引き継ぎが徹底していないのか、その日に当たった担当者によって対応が違うことも多い。つまり、昨日はダメと言われたことが、もう一度聞きに来てみると、今日はOKと言われることがある。ドイツでは役所関係でもよく似た話を聞くので、一度は受け付けてもらえなくても、諦めずにまた別の日や別の人に問い合わせてみることをお勧めしたい。

私は外国人局の総合窓口で2週間も掛かると言われた滞在許可の発行、苗字のアルファベット別の担当者に直接お願いしたところ、なんと3日で発行してくれた

職業上のデメリット

ドイツ在住39年という友人は、「日本の役所と電話でやり取りした時に、対応してくれた人が名前を言わなかったから、びっくりした。2回目はこちらから、お名前は?と聞いたけれど、名前がわからないと、次に何か問題があった時に問い合わせができないから困るよね」と話してくれたことがある。

ドイツだったら絶対に担当者の名前を言うのに、日本は自分の名前を言わないの、責任逃れみたいで嫌だなぁ

私は彼女のこの見方を聞いて、それは責任逃れというよりも、分業と協業、ないしは個人主義と全体主義の違いじゃないかな、と思った。日本の役所は『担当者』ではなく『担当部署』として対応するのである。前回話した人が誰かわからなくても、同じ部署に電話すれば、違う人が同じように対応してくれる。

私が日本で会社に勤めていた時にも、日本人の同僚達は、自分の担当外であっても部署内の仕事はなんとなく一通り把握していて、本来の担当者がいないときに緊急の問い合わせがあると、臨機応変に応えていた。たらい回しにされないで済むこんなサービスは、ドイツでは考えられない。

一方で、日本では「誰の担当とはっきり決まっていないが、何となく誰かが対応している」仕事ができやすい傾向があると思う。よく気がつく人や、仕事が出来る人のもとに仕事が集まってくるものだから、いつの間にか一部の人に負担が掛かってしまうよりは、ドイツのように最初から担当をハッキリさせた方が良い面もあるかもしれない。

住民登録票など
ハイデルベルクで住民登録した際にもらった冊子とエコバッグ。住民票には市役所で担当してくれた職員の名前がはっきり書いてある

それから、ドイツで研究中の日本人医師の男性2人と、その奥様達と食事をご一緒する機会があり、興味深いお話を聞くことができた。医療技術が進んでいるドイツだが、日本と比べて合併症の発症率が高いそうだ。分業制のドイツでは、手術前のチェックと、実際の手術と、手術後のチェックを、同じグループの別の医師が行うことが普通だという。もちろんグループ内で情報共有されているが、一人の担当医が一貫して最初から最後まで診る日本と比べると、患者の些細な変化に気づくことは難しい。

日本の医師は、自分の担当の患者さんがいる限り、365日24時間体制で駆けつける用意が必要です。その点、ドイツはグループ内で分業しているので、格段に休暇を取りやすいのですが…

サービスを提供する側と受ける側の、メリットとデメリット、いずれも背中合わせである。

グループワークでの分業

分業の精神が徹底しているのは職業上だけではない。その他の場でも感じることが多々ある。

私がハイデルベルクの大学院に在籍中、あるゼミでは5人くらいでグループワークをしなければいけなかった。中国人学生のグループは、自分自身の担当のタスクが終わった後でも、まだ終わっていない仲間を手伝うために、全員が残って一緒に作業を続けていた。それを見たドイツ人の講師がいたく感心していたのを覚えている。

ドイツ人だったら、自分の担当範囲が終わったら先に帰りますが、アジア人の助け合いの精神はすごいですね

学科で唯一の日本人だった私は、ドイツ人学生よろしく早く帰ろうとしていたのだったが…。日本とドイツ、両方の善し悪しを見てきた身としては、「自分の担当が最優先。無理しない程度に周りも手伝う」くらいがちょうどよいのかな、と今は思っている。

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