リガ紀行・後編:ラトビアで感じるドイツ・ロシア・日本

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ロシアの影響

前編で紹介したように、ハンザ同盟の遺産やユーゲントシュティールが残り、そもそも特徴的なリガの文化を更に多様にしているのは、ロシアの影響である。

長らくロシア帝国ソ連の支配下にあったラトビアが独立を達成したのは、1991年のこと。まだ30年ほどしか経過していないことに驚かされる。旧市街には、非常に立派なロシア正教の教会がそびえ立っていた。

丸い屋根の塔がいくつも繋がったような、パステルカラーの教会
丸い屋根が印象的な建築

ふらりと私たちが中に入ったときには、ちょうど厳粛な雰囲気の礼拝が行われていた。金色を多用したきらびやかな装飾とイコン、美しい祭服をまといそれぞれ違う役割をもった聖職者たち(そういえば全員男性だった)、おそらく聖書の一節だと思うのだが朗読というより合唱のように響き渡る声…。

内部は撮影禁止だったので残念ながら写真がないのだが、まるで何かの劇を見ているような、圧倒される美しさだった。その場にいた信者の人達はロシア系と思われる女性が多く、教会に入る時には頭にスカーフを被って、熱心に礼を繰り返しながら礼拝を聞いていた。私たちも後ろの方に立って20~30分ほど一連の儀式を見ていたが、飽きることがなかった。

旧市街の中心地からは少し離れた、リガの中央市場の近くでは、こんな建物も発見した。

空を刺すように中央部分が高く尖っている茶色っぽい大きな建物
ラトビア科学アカデミー

おそらくモスクワに行ったことがある方は「あっ!」と思うだろう。いわゆスターリン建築というスタイルで建てられた建築群にそっくりである。モスクワには全部で7つあるので、通称「セブンシスターズ」とも呼ばれているという。

私の同行人のDは、父親が旧東独出身のドイツ人で、母親がロシア人。両親が出会ったモスクワ大学もスターリン建築の代表作だという。「大学の一部は学生寮になっていて、両親も当時はこんな建物の中に住んでいたんだよ。僕も実際にモスクワで見たことあるけど、思ってもいなかった戦争が起きてしまって、もうロシアに旅行することは当分できないね…」とDは感慨深そうにしていた。

ベルリンでドイツ語&ロシア語のバイリンガルとして育ったDは、ラトビア語が公用語のはずのリガでは「ロシア語ばかり聞こえてくる」とずっと言っていた。たまたまロシア語圏出身の観光客や住民が周りに多かったのかもしれないが、お店に入っても英語よりロシア語の方が通じるような印象だった。

もっとも、私たちがベルリン空港で出会ったラトビア通のドイツ人男性は、

ヨーロッパからの観光客である以上、ロシア語より英語で話した方が好印象を持たれると思うよ。若い人たちはみんな英語が流暢だし。今の状況下で、ラトビア人はロシアに対してかなり批判的になっているからね

と言っていたが、Dがロシア語で周りと話していてもごく自然な感じだった。

ある教会の中でラトビア人と思われる年配の教会関係者に声を掛けられ、教会の歴史を英語で説明してもらった時も、その女性が言葉を探している時に無意識に呟いていたのはロシア語だったそうだ。ロシア語を今でも第二言語として話す人が想像以上に多いようである。

食に見る多文化

様々な文化の影響を受けているのは建築だけではなく、食文化も同じ。肉料理のソースやデザートに色々なベリーが使われているのを見ると、やはり北欧との近さを感じる。

当然ながらロシアとの共通点も多く、私たちも中央市場でペリメニ(ロシア風餃子)やチェブレキ(揚げたミートパイ)で小腹を満たした。

テイクアウト用の容器に入った水餃子と、おしゃれなイラストの缶ビール
ロシア風ペリメニとサワークリームに、ラトビアのクラフトビール

同じく中央市場に入っていたパン屋さんは、角に小さなイートインスペースがあったので、コーヒーとケーキを注文して食後のデザートにした。これははちみつケーキと呼ばれるお菓子で、ロシアでもよく食べられるそうだ。

何層かある四角いケーキとコーヒー
ラトビアは物価が安く、ケーキは1.4ユーロ、コーヒーは1.7ユーロ!

一方で、メインディッシュの付け合わせとしてじゃがいもザウアークラウトがよく食べられるのは、やはりドイツの影響もあるようである。

てかりのある肉が三切れ並び、その真ん中にじゃがいもなどの野菜が入ったプレート
伝統的なラトビア料理のお店では、私はスペアリブとポテト、Dは牛頰肉の赤ワイン煮とマッシュポテトを注文

ドイツ在住かつロシアと繋がりのある私たちには馴染み深い味も多い中で、私とDが「これは今まで食べたことがない!」と思ったのは、ラトビアでは定番のおつまみだというガーリックブレッド

日本でも食べられている、フランスパンの断面にガーリックオイルを塗ったものとは違って、そもそもニンニク味の揚げた黒パンに、さらにガーリックソースを付けて食べるというもの。パンは表面はサクサクしているが中はしっとりしていて不思議な食感。ニンニクと塩がきいていて、いくらでもビールが飲めそうな魅惑の食べ物である。レストランで前菜に出されるほか、スーパーでも1~2ユーロで購入できる。

外には立派な教会の尖塔も見える窓際のテーブルに置かれた、プラスチック容器に入ったガーリックブレッド
ショッピングモールのスーパーで買ったガーリックブレッドをおやつに食べたところ、かなりおなかいっぱいに…

ところで、上の写真を撮ったのは、Galerija Centrsというショッピングモールのフードコート。デザイン性の高いおしゃれな空間で、トイレも無料、テラス席からは旧市街を一望でき、穴場の休憩スポットだった。夜にも行ってみたところ、お酒と食事を楽しみつつ歓談している(おそらく地元の)人たちで溢れていた。

日が暮れて夜になる直前の深い青の空に、柔らかな照明で照らされた街路
テラス席からの眺めも雰囲気がある

高級店で出てきた懐かしい味?

美味しいものを食べることが共通の趣味である私とDは、どこへ旅行するときでも、ちょっと贅沢なお店に一回だけ行ってみることにしている。ミシュランガイドをよく参考にするが、星が付くほどの高級店ではなく、「ビブグルマン」というコスパの良さにお墨付きのカテゴリーをチェックすることが多い。コース料理でも100ユーロ以下で食べられる価格帯だ。

リガには2023年時点で「ビブグルマン」に選ばれているお店はないようだが、非常に評価の高いお店をオンラインで見つけたので、予約して行ってみた。3 chefs restaurantというモダンなラトビア料理レストランである。

スタイリッシュな雰囲気の店内のテーブル席とカウンター
カウンターの向こうには料理人が作業しているのも見える

ここが、私とDが久しぶりに「10点満点中10点!」と合意する素晴らしいお店だった。フォーマルすぎずカジュアルすぎず居心地のよい空間、楽しく仕事していることが伝わってくるスタッフたち、フレンドリーで完璧なタイミングのサービス、目にも鮮やかで工夫の凝らされた料理の数々、新鮮な素材と斬新ながら奇抜すぎない味付け…。

肉厚で柔らかそうなラムと、丸いコロッケ、その周りに添えられた数種類のソース
メインディッシュのラム肉とコロッケ、数種類のベリーソース

シェフのおまかせコースは口直しも入れると9品あり、どれもラトビアならではの食材が使われていて美味しかったのだが、特に私たちの印象に残ったのはコースの真ん中くらいのこと。「フィヨルドのサーモントラウトとズッキーニ、ニワトコの実のソース」という料理で、その付け合わせとして出てきたものに目が釘付けになった。

石のような質感の丸い深皿に入ったトラウトと、白い平皿にのった二つ折りの葉っぱと緑の粉がかかった白いソース
右側のお皿にご注目

サービスの男性が英語で明るく説明してくれたところでは、

これはShisoTempuraです!Shisoというのはハーブの一種で…

私とDは思わず顔を見合わせ、私は笑って「はい、紫蘇ですよね。日本人なのでよく知ってます」と口を挟んでしまった。男性も笑いながら、「そうでしたか!じゃあ天ぷらもあなたにとっては珍しいものではありませんでしたね。でも今日は特別に、Furikakeも使っているんです」とユーモアたっぷり。

ソースにかかっているもの(おそらくハーブソルト)はふりかけとは呼ばないなぁと私は内心思いながらも一緒に笑い、揚げたてでサクサクの天ぷらを実際に口に運んでみると、二つ折りにされた立派な紫蘇には魚の切り身が挟まれていて美味!

今までにも、ちょっと高級でスタイリッシュなお店に行くと、アイスランドのレイキャビクでも、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラでも、和食の影響を感じられる料理が出てくることはあった。柚子を使っていたり、ワサビを使っていたり、出汁を使っていたり…。世界的に日本食ブームなのだろう。

とはいえ、紫蘇の天ぷらを、日本から遠く離れたバルト海の街で食べる日がくるとは…!

歴史的にドイツ、ロシア、北欧と関係が深く、思いがけず日本を思い出す味にも出会ったラトビア。色んな文化が混ざり合ったからこその魅力を感じるリガ旅行だった。


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