ドイツ人は計画好き?
「ドイツ人の性格のイメージは?」と日本で聞くと、多くの人が挙げるのは、『勤勉』『時間に正確』『堅実』『慎重』などではないだろうか。こういったステレオタイプのイメージは、現実とはかなり違う部分も多いので、ドイツ在住の日本人は異議を唱えるかもしれない。
一方で、『慎重』の特徴としても含まれるだろう『計画好き』については、当て嵌まるドイツ人も多いように思う。
私の友人たちも、例えば旅行に行くとなれば、エクセル表を作って細かく予定を組んだり、持ち寄りパーティーをするとなれば、誰が何を持ってくるかという細かいリストを事前に作ったりします
行き当たりばったりというよりは計画好きな個人が多い印象を受けるこの国において、私が面白いと思ったり戸惑ったりするのは、公共の事案がギリギリまで決まらないことが多々あること。
この記事では、過去数年間で「えっ、急!」と私が驚いたケースを手掛かりに、ドイツという国の不思議の一つに迫ってみたい。
ギリギリに制定された祝日
ドイツは、正式にはドイツ連邦共和国といい、16州が連邦政府によって束ねられている。州は日本の都道府県と比較されることが多いが、実際にはドイツの州の方がずっと権限が強い。
そのため、なんと州によって教育制度も違えば、祝日も違う。私が暮らしているベルリン州はもっとも祝日が少ない州の一つで、2023年現在で10日のみ(バイエルン州の一部では14日もある)。
実は2018年までは9日しかなく、ベルリン州の祝日はドイツ最少だった。それが2019年になって、急に新しい祝日が導入されたのである。
それは、3月8日の国際女性デー(Internationaler Frauentag)。クリスマスをはじめとしてキリスト教関連の祝日が多い中、これは女性の同権を求め、祝う日である。
2019年に書いた記事でも紹介したが、この祝日の導入はちょっと笑ってしまうくらい急だった。なんと2019年1月24日になって、同年から導入されることが正式に発表されたのだ。
一ヶ月半前になって祝日が急に制定されるなんて、もう今年のカレンダーも出回っているのにどうするんだろう…と余計な心配をしてしまいました
9ユーロチケット、突然現る
「ギリギリまで確実なことがわからない」という状態が続いているのは、公共交通機関のチケットも同じである。
2022年6~8月の3ヶ月間、『9ユーロチケット』という期間限定チケットが急に全国で販売されて大きな話題となったのは、ドイツ在住者の記憶に新しい。特急列車を除いて、電車・バス・地下鉄・路面電車など、ドイツ全土の公共交通機関が月9ユーロ(約1400円)で乗り放題になるという、衝撃的なチケットだった。
6月1日から使用開始だったところ、このチケットの導入をドイツ連邦議会が最終的に決議したのは、なんと5月19日。このチケットが提案されたのが3月だったので、そもそも急なアイディアではあった。
ロシアによるウクライナ侵攻が2月に起こり、ドイツでもエネルギー価格高騰が問題となっていることを受けて、国民の経済負担を軽減し環境に優しい移動手段を推奨する目的で、連邦政府がイニシアチブを取った。しかし各州への影響へも大きいため、誰がどこまで経済的な負担を負うかという調整が大変だったようである。
実際に9ユーロチケットが導入されてみると、誰でも駅の自動販売機やアプリで簡単に買えて(この時期ドイツに来ていた観光客はラッキー!)、結果的には5200万枚を超えるチケットが販売されたという。
私自身は元々ベルリン市内の定期券を年間契約しており、年始に一括払いしてあったのだが、6~8月は9ユーロを差し引いた額が銀行口座に払い戻され、定期券を9ユーロチケットとして全国で使うことができた。ベルリンの定期券は月60ユーロほどするので、かなり節約になる。
唯一の問題は、電車が人で溢れかえり、特に週末の中長距離路線は遠出しようとする人たちで大混乱に陥ったこと。私も何度か経験したが、始発の駅であっても席取りゲームのような様相だったし、そもそもドイツの人達が満員電車に慣れていないことも原因だったと思う。
ホームで列を作って待つ習慣がないので、電車が到着すると、開いたドアに人が殺到して押し合い圧し合いとなる。車内でもリュックを体の前に持ってきたり、入り口付近に立っている人は一度ホームに出て降りる人を通してあげたりする、日本では自然に覚えるようなマナーはあまり見られない。
そんな混乱はありつつも、3ヶ月間限定の9ユーロチケットの反響はやはり大きく、今後どうするのかという議論が国と州とで行われた。結論としては、ドイツ全土での統一乗り放題チケットはすぐに継続されず、また州ごとの判断に任された。
コロコロ値段が変わる定期券
私が暮らしているベルリン州では、9ユーロチケットがなくなった2022年9月、ひとまず以前の状態に戻り、私は再びベルリン市内の定期券に約60ユーロを支払った。
そうこうしているうちに、ベルリンでは『29ユーロチケット』の導入が9月中に決定された。ベルリン市内の交通機関が月29ユーロで乗り放題になるものである。
それも10月1日からすぐ開始されたので、私が通常の料金を支払ったのは9月だけとなった。10月以降は、9ユーロチケットの時と同じく、29ユーロを差し引いた額が口座に払い戻された。
元々は、2023年1月から全国的な9ユーロチケットの後継チケットが登場する予定だったので、『29ユーロチケット』は2022年10~12月の期間限定となるはずだった。しかし、結果的には2023年4月まで継続された。
というのも、例のごとく国と州の協議が難航し、政党間でも意見が分かれ、ドイツ全土で使える『ドイツチケット(通称49ユーロチケット)』が連邦議会で採択されたのは2023年3月半ば、導入されたのは5月になったからだ。
これをもってベルリン州の29ユーロチケットは廃止されたので、私も交通会社の案内に従って切り替え手続きをし、5月からは『ドイツチケット(49ユーロチケット)』を利用している。
ちなみに、2023年12月現在、『ドイツチケット』は2024年以降値上がりすると言われているが、その詳細は例のごとく未定である。また、2024年に向けてベルリン州の29ユーロチケット復活も最近決議されたのだが、何月になるかはまだ調整中だという。おそらくまたギリギリに決定されるのだろう…。
振り回されているのは…
このように、かなり前もって色々なことが決定していそうなドイツなのに、特に連邦政府と州政府の調整が必要な案件になると、ギリギリまで確実なことがわからないことがよくある。
急に何かが変更されると戸惑うのは利用者もそうだが、近年おそらく一番振り回されたのは、公共交通チケットの規則が変わるたびに、定期券所有者への連絡や返金手続きなどに追われた各州の交通会社だと思う。私はSバーンベルリン社 (ドイツ鉄道の子会社)で定期券を購入しているが、頻繁に手紙やメールが届き、思わず「お疲れさまです」と言いたくなってしまった。
振り回されることもありつつ、9ユーロチケットの導入など、短期間で国単位の大きな決定と予算配分、システム整備がされるのはすごいことだなとも思います
コメント