リガ紀行・前編:ラトビアに残る中世ドイツの面影

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穴場の旅先

ドイツ在住の日本人同士で話していると、「日本からだとなかなか行かないが、ドイツからだと近いし良い旅先」という話題に時々なる。例えばイギリスやフランスであれば、日本から直行便もあるし、思い立って行くこともあるだろう。一方で、スロベニアポーランドは(私が実際にベルリンから行ってみて良かった場所だが)、ヨーロッパに住んでいないとなかなか訪れない国だと思う。

そんな「日本からだとなかなか行かない国」に間違いなく入ると思われるのが、バルト三国。バルト海の東岸、フィンランドの向かい側に縦に並ぶ国々で、北から順に、エストニアラトビアリトアニアである。

Google Mapsで見たバルト三国

そういえばスウェーデンのストックホルムから、フィンランドのヘルシンキまでフェリーで旅している途中で、対岸にエストニアの首都・タリンが見えたことがあります

バルト三国の首都にはベルリンからそれぞれ直行便があり、1~2時間で到着とごく近い。最近私と同居人のベルリーナー・Dは、思いついてラトビアの首都・リガに行ってみたので、そこで印象深かったことをお届けしたいと思う。

印象的なバロック様式の「ブラックヘッドハウス」
旧市街はユネスコの世界遺産に登録されている。市庁舎広場にて

2泊3日だけだったものの、リガはコンパクトな町なので十分に楽しめた。フライトはエアバルティックで往復100ユーロ強、ホテルも高くなく、現地の物価もドイツと比べて安いので、お値打ちな週末旅行だった。

ベルリン空港での出会い

リガの旅行記という本筋からは早速脱線してしまうのだが、私たちが出発したベルリン空港では面白い出会いがあった。

私とDは早めに空港に着いてセキュリティチェックも済み、まだボーディング開始まで1時間以上あったので、しばらく見晴らしの良い場所に座っていようと、ガラス張りになった静かな一角を見つけてのんびりしていた。

滑走路を見渡せるガラス張りの一角からは、イージージェットの機体が見える
まだ朝7時くらいなので空が赤みがかっている

すると、椅子の横に、ひょろりとした人影が現れた。私とDが顔を上げると、小ざっぱりした服装の40歳くらいのドイツ人男性が笑顔で立っていた。

Moin!(やあ!)きみたち、いい場所を見つけたね

あまりに普通に声を掛けられたので、「あれ、この人どこかで会ったことあったっけ」と一瞬考えたが、覚えがなかった。D(巻き毛に眼鏡で大きなテディベアみたいな体型)も私(黒髪に眼鏡で子どもみたいな体型)もよほど人畜無害に見えるのか、よく知らない人に声を掛けられる…。

男性は自然に私たちの横に腰かけ、「どこに行くの?」と会話が始まった。お互いリガ行きのフライトを待っているところだとわかると、男性は私たちに、リガで見るべきものや行くべきところといった情報をよどみなく教えてくれた。

ぼくはラトビア人女性と結婚していて、もう数年来ドイツとリガを行き来しているんだ。ついに奥さんがドイツへ移住することになって、今回は迎えに行くところだよ

彼自身の出身はフランクフルト近辺だという。「どっちのフランクフルト?」とDが聞くと、

本物のフランクフルトの方。ヘッセン州に偽物があるって聞くけど

とニヤリ。

実はドイツには「フランクフルト」が二つある。日本からの飛行機も着く国際空港があるのがヘッセン州Frankfurt am Main(マイン河畔のフランクフルト)で、ドイツ東部でポーランドと国境を接しているのがブランデンブルク州Frankfurt an der Oder(オーダー河畔のフランクフルト)。男性は後者の出身というわけである。

男性はリガという町や、ラトビアという国の素晴らしいところを途切れるところなく語ってくれた。様々な時代の建築様式が混在する美しい街並み、多彩な食文化、リガから電車で少し離れるとビーチがあること、歌と踊りをこよなく愛する国民で5年毎に国をあげた歌と踊りの祭典があること、スポーツにも熱心でラトビア代表チームが世界大会で入賞すると次の日が急に祝日になったこと、ロシアと国境を接している小国としてウクライナとの連帯を強く押し出していることなど…。

ロシア大使館があるリガの通りは、なんと「ウクライナ独立通り(Ukrainas Neatkarības iela)」に改名されたというから強気です

私とDは思わず、「そんなにラトビアが素晴らしいなら、奥さんがドイツへ来るよりも、一緒にラトビアで暮らしたらいいのに」と言ってしまったが、男性は「うーん、ぼくの仕事の関係で難しいんだよね」という。

後で聞いたところ、なんとこの男性はオルガン職人で、家族でオルガン制作所を経営しているのだった。色々なプロジェクトに携わっていてドイツ国内の出張も多いという。私とDは絶滅危惧種に出会ったように興味津々。

男性との話は尽きることがなく、飛行機の中では座席が離れていたので別々になったが、リガ空港に着くと私たちを市内行きのバス停まで案内して、手持ちのチケットまで渡してくれた。男性自身は、義理のお父さんと思われるラトビア人男性が車で迎えに来ていたので、お互い「元気でね」と言い合いながら別れた。

普通の大きさのバスに乗り込もうと並んでいる人たち
私たちはこのバスに乗って30分ほどで市内に到着。チケットは1.50ユーロと安い

そんなわけで、私とDのリガ旅行は、ラトビアを愛するドイツ人による大量の情報のインプットから始まったのだった。

建築に圧倒されるリガ

リガの市街地はコンパクトだが、メインストリートが一本あるわけではなく、石畳の道が入り組んでいるので、ぐるぐる歩き回ってみることになる。

石畳の小路にカラフルな家が並んでいる
私たちがカフェ休憩をした細い通り

近代的なショッピングモールや、飛行船の格納庫だったという巨大なカマボコ型の中央市場を除いては、大き建造物はあまりなく、長い歴史を感じる建物が立ち並んでいる。

種類ごとに分かれたカウンターが並ぶ屋内マーケット
中央市場にはフードマーケットもあり、色々な食べ物を試すことができる

ドイツ在住者にとって面白いのは、街並みにどこかドイツっぽさを感じること。それもそのはず、かつてリガはハンザ同盟(北ドイツ中心の商業都市同盟)に加わり、ヨーロッパとロシアを結ぶ貿易拠点として繁栄したのである。街中を歩いていると、ドイツ人商人ゆかりの建物に度々出くわす。

中世から立つ教会の前で発見したのは、ブレーメンの音楽隊。同じくハンザ同盟の一員だったドイツのブレーメンとリガは姉妹都市で、この像を贈られたらしい。

赤煉瓦造りの教会の前に立つ、歪んだ表情のニワトリ、猫、犬、ロバの銅像
絶妙なブサイクさ

しかし私とDが一番感激したのは、旧市街の中心部から徒歩20分ほど離れた、新市街の一角である。実はリガには、ユーゲントシュティール(フランス語でいうアール・ヌーヴォー)建築が多く残っており、その数は世界屈指だという。

水色の壁から白い無数の柱が浮き出るように装飾が施されている建物
一つの建物にミュージアムが詰め込まれたような、精緻な装飾が施されている

ユーゲントシュティールは主にドイツ、オーストリアにおいて19世紀末から20世紀初頭にかけて流行した美術様式やその運動のことをいう。特徴的なのは、優雅な曲線で動植物を図案化したり、人間の顔面を多用したりしていること。美しい反面どこか不気味さも感じるモチーフが多い。

カリアティード(古代ギリシアの神殿や中世ヨーロッパの寺院建築で、梁を支える柱の代わりに用いられた女性の像)のような立像もあれば、屋根にライオンがついていることも。

ピンクと赤の建物が並び、屋根には二匹のライオンが横を向いて立っている
壁の色合いもパステルカラーで可愛い

私もそうだが、建築好きな人にはたまらない一角である。アルフォンス・ミュシャの絵画が好きな人にとってもきっと楽しいと思う。

水色のファサードに、人間の顔面のモチーフがたくさん付いている
いつまでも眺めていられる美しさ

今度は、このユーゲントシュティールの建築群とは旧市街を挟んで反対側、ダウガヴァ川の対岸に目を向けてみると、また印象的な建物が建っている。

凸凹した山のような近代的な建物の前に、遠近法を用いた像が立っている
その前に遠近法のような面白い像があったので、真ん中に座ってみるD

実はこれはラトビア国立図書館。ジグザクした外観もユニークだが、内部に入っても圧倒される。

入り口のあたりは吹き抜けになっており、交差するように階段が上の階まで伸びている
交差するように上まで伸びた階段が印象的

無料で誰でも入館できるが、自動ゲートになっているので、まず受付でパスをもらう必要がある。受付の女性も慣れたもので、「見学だけですね」と短期ビジター用のパスをすぐに出してくれた。

斜めになったガラスの向こうに本がずらりと並べられている
これはデコレーションだと思うが、階段横には数千冊の本がずらりと並んでいる

階ごとに書架スペースや学習ルームがあるのはもちろん、少し奥まったところにエレベーターがあり、11階まで一気に上がることができる。なんと上は展望スぺ―スになっており、対岸の旧市街地を一望できた。

階段で最上階の12階まで上がると、一面ガラス張りになっている

私とDは何も知らずにふらりと入っただけだったのですが、展望スペースの他に、ロッカー、トイレ、水飲み場、Wifiも完備されていて居心地よく、この国立図書館は休憩するのに最適…!

建築だけにとどまらないリガの魅力は、旅行記の後編でお届けする。

コメント

  1. 浜須ホイ より:

    ブログ更新お疲れ様です。

    ラトビアは、旧ソ連から独立したバルト三国の一つというぐらいしか、馴染みが殆どあり
    ませんでした。
    ドイツからは意外と近いのですね。日本で言うと、北海道や南九州など遠目の国内旅行ぐ
    らいの移動時間でしょうか。

    確かにリガ市街地の家並みは、写真で見るドイツの街に似ていますね。
    また、公共の建物が立派です。特に壁面の彫像が見事です。守り神の様な意味もあるので
    しょうか。コストもかかりそうですが、何か建築の考え方に余裕や遊び心の様なものが感
    じられますね。

    それにしてもブレーメンの音楽隊像は何なのでしょうか。もっと格好の善いものか、愛嬌
    のあるものを、なんで贈らなかったのだろうと思いました。

    旅の後編を楽しみにしています。

    • Aki Aki より:

      こんにちは、いつもコメントありがとうございます!

      日本からバルト三国に行く場合には三ヵ国を巡るツアーが多いと思いますが、ベルリンからだと週末旅行で一カ国ずつ行ってもちょうど良い距離です。

      建物の装飾の繊細さや、彫像がついていることもすごいですよね。地震のないヨーロッパならではだなとも思います。

      ブレーメンの音楽隊は、そう、お世辞にも可愛いとは言えない顔をしていました。。。
      でも脚や顔を撫でてみる観光客が絶えないらしく、ロバと犬の鼻先はピカピカになっていました。

      後編も読んでくださるとのこと、ありがとうございます。11月に更新します!

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