鍵をめぐるバトル – 権利を主張する、という権利

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土曜日:まさかのトラブル発生

事件は、ある土曜日の夜に起こった。日本人の友人Aさんと楽しく食事をし、アパートに帰った私は、建物の鍵を開け、それから自分の部屋の鍵を開けようとした。すると…

ポキっ

鍵穴と、真っ二つに折れた鍵
まさかの展開

鍵が…折れた…?!

なんと、鍵を回している途中で、真っ二つに。折れた部分は鍵穴にしっかり詰まったままで、爪の先で挟んで取り出そうとしたが、どうにもならない。私は人生において鍵を忘れたこともなければ、鍵が折れるなんて想像もしたことがなかったので、内心パニックである。自分の部屋の目の前に立っているのに、入れないなんて!

しかしパニックになっていても仕方ないので、落ち着いて現状を考えてみた。

・家具付きの賃貸物件で、鍵も自分で取り付けたわけではなく、大家さんから2セット(建物の鍵&部屋の鍵&ポストの鍵)をもらった

・一人暮らしで、スペアの鍵のセットを誰かに預けることもしておらず、部屋の中にある

・大家さんもスペアの鍵を持っているかどうかは聞いていない

とりあえず、大家さんに連絡して、どうすべきか聞くのが第一だ、と結論付けた。しかし、大家の男性(本当の所有者であるドイツ人の老婦人は、違う街に住んでおり、実際に管理しているのはベルリン在住の息子さん)の携帯電話に電話しても出ない。自分の部屋の目の前にいてWi-Fiも入ったので、スマホからメールも送ってみたが、しばらく待っても反応なし。

もう夜も遅いし、明日まで待つしかないと思った私は、別の地区に住んでいるAさんに助けを求めたところ、「泊まりにきてください!」と快く言ってもらった。ベルリンは広いので、1時間ほど掛けて、その日はAさん宅まで避難。

もし何らかの事情で部屋に入れなくなった場合は、Schlüsseldienstと呼ばれる、24時間対応の鍵の緊急サービス業者に電話して、開錠してもらうのが普通(ドイツのドアは基本的にオートロックなので、うっかり部屋の中に鍵を置いたまま外に出てしまい、「しまった!」となるのは良く聞く話)。出張費は90ユーロくらいからで、夜間と週末は割高になる。作業自体は特殊な工具を使って5〜10分で終わるのに、依頼主が困っていることに付け込んで、法外な料金を請求する悪質業者も多く、ドイツでも問題になっている。

日曜日:バトル開始

さて、翌日の朝、ようやく大家さんと電話が繋がった。しかし、彼はスペアキーを持っていないことが判明。「スペアキーがあったところで、折れた鍵が刺さったままだとドアは開かないし、自分で鍵屋を呼んで修理してもらうしかないですね」と言われる。

そんな〜!と思った私は、一応食い下がってみた。

鍵が折れるなんて普通じゃないし、何か欠陥があったんだと思います。私の責任だとは思えないし、そもそも鍵穴と鍵は私ではなくアパートに属するものです。それでも自己負担で修理しないといけないんですか

すると、「そうだ」と大家さん。「僕も鍵が折れたことありますよ。残念だけど、自分で直してください。お勧めの鍵屋の情報をメールしますから」とのこと。解せない気持ちながらも、ドイツでこういった状況になるのが初めてだったので、そんなものなのかなとも思い、しぶしぶ電話を切った。

その直後、私の友人で、ベルリンで生まれ育った生粋のベルリーナー・Dが、心配してくれていたので、電話で事情を説明した。すると、いつもは陽気で人の良いD、驚く勢いで激怒

「なにその大家!Ar*****ch!(罵り言葉)君は自分の部屋に入れなくて困っていて、むしろ被害者なのに、どうして君のお金でアパートの修理してあげないといけないんだよ!ありえない!これから僕もインターネットで法的な裏付けがないか調べてみる」と。

Dもアパートの鍵穴(シリンダー)が壊れたことがあるそうで、大家さんに連絡したところ、すぐに鍵屋に電話して、大家さんの負担で修理してくれたそうだ。私はそれからDの家に移動し、一緒に情報収集をした。

結論から言うと、鍵が壊れた時というのはケースバイケースだが、借主が力尽くで壊したというのでなければ、部屋の所有者が修理するパターンが多いようである。他の設備と同じように、部屋の一部だからだ。

私の賃貸契約書を確認しても、75ユーロまでの修理は借主が自由に行って良いが、キッチンや床など高額な修理が経年劣化で必要になる場合には、貸主が手配することになっている(鍵については記載なし)

争い事が嫌いな私は、大家さんとの関係が悪くなるのも嫌だし、お金を払って解決できるのならそれでいいかな、という気もしてきていたのだが、Dに「それは正しくない」と言われる。

僕だって争い事は嫌いだよ。でも、不当な扱いはもっと嫌い!これはお金の問題じゃなくて、権利を押し通せるか、の問題だ。泣き寝入りしたらそこで終わりだよ

そこで、諦めずにもう一度大家さんと交渉してみることにした。ドイツ語ネイティブではないし、性格的につい控えめな言い方をしてしまう私に代わり、今度はDが電話してくれ、バトルが繰り広げられた

「うっかり鍵を失くしたわけでもないし、借主に落ち度はないのだから、アパートの所有者が鍵屋を呼んで修理すべきだ」と熱くまくしたてるDと、「まだ鍵穴を付け替えてから2年も経たないから、経年劣化のわけはない。壊したのは借主だ」と一向に取り合ってくれない大家さん。

勝負がつかず平行線を辿った後、Dが、「わかりました。じゃあ本人に鍵屋を呼んで、見てもらうようにします。欠陥があったということが証明できたら、また連絡しますので」と言い置いて、電話を切った。

それから何軒かの鍵屋の緊急連絡先に電話したが、日曜日なので(ドイツではお店も閉まる休息日)すぐに派遣できるスタッフがおらず、料金も1.5倍くらいになるから、待てるなら翌日まで待った方がよい、と言われる。ちょうど月曜日は私は仕事が休みだったので、そうすることにした。

月曜日:2日ぶりの帰宅

月曜日の朝早く、再び自分の部屋の前へ。鍵屋さんを呼ぶ場合、支払いは現金になるとわかっていたので、その前に銀行のATMでお金をおろしておいた。

念のため、Dが貸してくれたドライバーやペンチを使い、鍵穴に刺さったままの折れた鍵を取り出せないか、あわよくば上手くつまんで鍵穴を回せないか試してみたものの、びくともしない。しかも同じ階の住民や、清掃員の人が時々出入りするので、いくら自分の部屋といっても、鍵をどうにか開けようとしている姿は、どう見ても不審人物。。。

降参して、前日問い合わせたうちでも料金が安く良さそうだった鍵屋さんを呼んだ。電話してからアパートの前で待つこと45分ほど、工具箱を持ったずんぐりした男性が車でやってきた。しかしプロでも一筋縄ではいかず、普通の工具では駄目だったため、結局車まで電動工具を取りに戻ったおじさんは、ガガガガ…と鍵穴を破壊してドアを開けてくれた。

2日ぶりに我が家に入れた感動…!!

もちろん、電動工具で壊された鍵穴(シリンダー)はもう使い物にならないので、新しいものに付け替えてもらった。付属の新しい鍵も受け取る。

「何が問題だったんですかね」と聞いた私に、「あなたが鍵を折ったことですよ」とおじさんはニヤリ。いやいやそうじゃなくて、とツッコむと、「シリンダーがうまく回らなくなってましたね。付属の鍵も薄っぺらいし、これじゃ折れても無理はない」と。

出張費と作業費、新しい鍵穴と鍵の代金で、187ユーロを支払った。200ユーロは超えることを覚悟していたので、良心的な値段にほっとした(週末だと70ユーロはプラスになっていたそうだ)。大家さんと経費負担の件で交渉していることを話すと、しばらく考えた後、請求書の備考欄に、『シリンダーの欠陥。借主に責任なし』と書いてくれた。

不幸中の幸い、良い鍵屋さんでよかった。ドイツではよく出会うタイプだが、しごく無愛想に見えるのに、ふと冗談をはさんできて、笑うと急に可愛くなるおじさんだった。最後にも、「新しい鍵をキーケースに付けるの忘れないようにね!」と丁寧に注意してから去っていった。

火曜日〜:長い道のり、そしてハッピーエンド

鍵屋さんが私の責任ではないと書いてくれたことを報告すると、これで勝ったも同然だとDも大喜び。請求書をスキャンして大家さんに送ることにしたが、私が書いたメール本文を、Dと、自身も賃貸物件を持っているというその同僚が手直ししてくれることになった。

2人に、「壊れたのはまだ新しい高価な鍵穴だったとのことで、保証期間内でしょうから、あなたにとって実質的な費用負担が発生しないように、欠陥品として製造元に送り返してもらえればと思います」とも書けばいいよ、とアドバイスされて、私は青ざめた。

壊れた鍵穴、おじさんが持っていっちゃった…!

そう、その時は、壊して取り外したシリンダーを大家さんに返す必要があるかもしれないなんて、考えもしなかったのだ。慌てて鍵屋さんに電話するも、私のところに来てくれたスタッフは病欠になってしまい、他の人ではわからないとのこと。何日か続けて電話したが、例のおじさんと話せなかったので、私の電話番号をお店に伝えて、病欠から戻ってきしだい折り返し連絡をもらうように頼んだ。既にシリンダーが処分されていないことを願いつつ…。

しかし電話がないまま、週末になってしまう。仕方ない、鍵屋さんまで遠くないし、とりあえず行ってみよう、とお店に顔を出して話をすると、「あぁ、その話聞いてますよ!取り外したシリンダー、見つかりました」と他のスタッフが持ってきてくれた。無事に回収できてよかった!

それから、Dと同僚に手直ししてもらった、ごく丁寧な文面のメールに領収書を添付して、大家さんに送信。すると案の定、「では、製造元に送り返そうと思うので、取り外したシリンダーを届けてもらえますか」と返信があったので、大家さんの住所を聞いて、ポストに入れにいった。

その後、「本件、付き合いのある弁護士に相談します」とメールがあり、何だか大変なことになってしまったなぁ、と思いつつ、もしお金が返ってくればラッキー、と待っていると…

約2週間後、「こちらで費用を負担します」と連絡が!そして私の銀行口座に全額が振り込まれた。

勝訴!!

学んだこと

せっかくの3連休だったのに、自分の部屋に帰れないという事態になり、その後も費用負担の件がはっきりするまで長く振り回されたが、ある種の学びになった。

まず、友達のありがたさを痛感。特に私はこちらに身内がいないので、遠くの親戚より近くの他人とはこのことである。急でも泊めてくれたり、一緒に憤慨して交渉してくれたり、感謝しかない。

それから、今後はスペアキーを信頼できる人に預けることにした。今回のように、鍵穴が動かなくなってしまうとどうしようもないが、万が一どこかに鍵を忘れた時のためである。

また、ドイツに来たばかりの頃は苦労する人が多いと思うが、そもそもドイツの鍵穴はかたく、開錠するのにコツが必要なことが多い。私の部屋のドアもそうだが、片手でドアノブを強く手前に引っ張り、もう片方の手で同時に鍵を回さないと開かない(それでも引っかかるような感じがする時もある)。今回の事件があってからは更に気を付けて、体を傾けて全体重をかけるくらいのつもりでドアノブを引っ張るようにしている。

最後に、権利はちゃんと主張すべき、というドイツ人の断固とした姿勢。私も、実際にお金が返ってきたことよりも、手間と時間と心労が報われ、自分の主張が認められたことが嬉しかった。

これだから、この国ではデモやストライキが多いのでしょうね…

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