ドイツの通学・通勤事情

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ドイツ的感覚

日本にいると普通だと思っていたことが、ドイツでは普通ではなくなることがある。それは、私のようにドイツ国外で育った人と、ドイツで育った人との文化の違いであったり、外国人であってもドイツに長く住んでいると感覚が変わるということであったりする。

卑近な例でいえば、通学・通勤時間。日本だと片道1時間電車に揺られるというのはごく普通だと思うが、ドイツだと「え~っそんなに遠くから来てるの!」とビックリされる。

不思議なことに、昔は東京郊外にある実家から1時間半近くかけて大学まで通っていた私も、ドイツに来てからは「通学に1時間以上かかるなんてとんでもない」と思うようになった。

なるべく家族との時間自分の自由時間を確保しようとするドイツの感覚に馴染んだこともあるし、日本ほどドイツの公共交通機関は信用できないということもある。かなりの頻度で遅延したり、デモなどの影響で迂回したりするので、常に時間的な余裕を見ておかないといけない。

遅延するというのはまだわかるけれど、ベルリンでは時刻表より数分早く出発することが度々あります…。間に合うよう停留所に向かって歩いていたのに、バスやトラムがサーっと目の前を通り過ぎていってしまう時の切なさといったら

特にトラムはほぼいつも遅れているか早すぎるので、私はもはや時刻表を見なくなった

また、例えば一つの交通手段しかない場所に住んでいると、「もしこの路線が走らなくなったらどうしよう」という緊張感がいつもある。常にどこかで工事が行われているベルリンでは、一定の区間で電車などが走らなくなることも多いし、年に何度かはストライキのため一部の交通手段がまったく使えなくなることも。

そのため、もし普段使っている路線が駄目になっても他の交通手段でベルリン中心部まで行ける、というように、電車・バス・地下鉄・トラムなど複数のオプションがある場所に住むことは、大きな安心感に繋がる。私自身、いま住んでいるアパートのほぼ目の前にバス停があり、乗り換えなし35分で職場の最寄りのバス停まで行けるという便利な環境で、もし大規模デモなどでバスが走らない日には電車を乗り継げば出勤できる。

高層ビルの間に夕陽が沈んで赤くなった空と、プラカードや旗を付けて走ってくるいかついトラクターの列
職場から帰宅中、ベルリン中心部のポツダム広場で農業関連のデモに遭遇。沈む夕陽の彼方からどんどん現れるトラクター。この間、私の乗っていたバスは立ち往生

節約のために

職場や学校が家から近ければ近いほど、時間また気持ちに余裕ができるということは、どの国でも同じだろう。しかし、なぜドイツではなるべく職場の近くに住もうとするかというと、もう一つの理由がある。金銭的な余裕にも繋がるのだ。

大半のドイツの雇用主は、従業員の交通費を支給しない。つまり、遠くに住んで交通費が高くなれば高くなるほど、自己負担が増すのである。

ICチップ入りの交通カードと、写真また名前入りの交通カード
ベルリンは中心部から輪を描くように、A・B・Cの3ゾーンに分かれている。私が買っている定期券(左)はA・Bで有効で、ゾーン内であればどの交通機関も乗り放題。部分的に雇用主が費用を負担する、写真と名前入りの通勤用定期券(右)も存在する

通勤にかかる交通費は、公共交通機関であっても自家用車であっても、毎年行う所得税申告で控除の対象となるので、税金の軽減には役立つが、もちろん全額支給にははるかに及ばない。交通費は基本的に会社負担で、新幹線での通勤を認めているところすらある日本とは大きな違いだ。

通勤はあまり優遇されない一方で、ドイツの大学生は、ゼメスターチケット(Semesterticket)という格安のチケットを学期ごとに買うことができる。周辺の交通機関が乗り放題になり、州全体で有効というところもあるし、そもそも学生証がゼメスターチケットを兼ねているという大学もある。

そうかといって、遠くから通っている学生が多いかと言えばそうでもなく、ほとんどの学生は大学がある町で暮らしている。各大学は学生寮(留学生だけではなくドイツ人学生も入れる)を提供しており、大学近くで部屋を安く借りられる可能性も日本と比べて高い。

私はハイデルベルクに留学していた学部生時代、大学近くの寮に空きがなかったので、ライメンという隣町の学生寮から電車とバスを乗り継いで通っていた。家から大学までトータルで50分くらいだったが、いつも「家、遠いね!」と周りから言われていた。

大半の学生はもっと近くに住んでおり、ゼメスターチケットを買わずに自転車で通学している人も多いため、ハイデルベルクの街中はいつも自転車で溢れている。

二階建てバスの上から見えるブランデンブルク門と、自転車で移動する人たちの列
自転車で通学・通勤している人が多いのはベルリンも同じ。朝のバスの中から眺めていると、スーツ姿の人も颯爽と自転車で走り抜けていく

親元を離れる文化

通学時間に関して言うと、日本でそれが長くなりがちなのは、遠くても実家から通おうとする人が多いこともあると思う。私が通っていた東京の大学でも、「実家生」と呼ばれる実家から通学している同級生がかなり多く、神奈川県の湘南地域などから2時間近くかけて通っている人もいた。

一方でドイツでは、親元で暮らしているという大学生はかなり少数派である。大学に入るのは18歳くらい、つまり成人するタイミングにも重なり、ほとんどの人は自立すべく家を出る。他の町の大学に進学する場合はもちろんながら、同じ町であってもそうなのである。

私のドイツ人の同居人Dとその弟Cも、ベルリンの大学に通っていましたが、やはりベルリン郊外にある実家から早々に引っ越し、それぞれ一人暮らしをしていました

実家にいれば、家事を一人でしなくてもいいし、家賃もかからないし、メリットもあるように思われるが、「成人したら自立する」のがドイツでは普通のようである。

日本と比べて奨学金制度が充実していることも大きいと思う。私のドイツ人の友人でも、政府の学資ローン『BAföG』を受けている人が多かった。卒業後に返済義務があるのは給付額の半分だけで、無利子である。一方で日本、特に東京では、本当は実家を出たくても経済的に一人暮らしをできず、遠くからの通学を余儀なくされている学生も多いに違いない。

青空のもと、マンションが並んでいる向こうに教会の尖塔が見え、眼下には黄色い地下鉄が高架橋の上を走っている
ベルリンにも東京と同じように地下鉄があり、区間によっては地上に出て高架橋を走っている

通勤バスの不思議

最後に、ベルリンで就職してから私が不思議に思っていることについて記してみたい。

通勤ラッシュ時の東京の電車は、会話したことがなくとも顔見知りのような気がしてくるほど、毎朝同じ電車(更には同じ車両)に同じ人が乗っている。この人はいつもこの駅で降りるな、と無意識のうちに記憶してしまうほどである。

ところが、私がベルリンで毎朝8時過ぎに乗っている決まったバスは、不思議なほど日によって混み具合がバラバラなのだ。ベルリン中心部に向かう路線なので、通勤に利用している人も多いはずなのだが、時々見かけるオフィスカジュアルらしき服装の乗客も、毎朝必ず同じバスに乗っているわけではない。

このバス路線は10分間隔で走っているので、その日の調子によって一本早めたり遅めたりしているのかもしれないし、フレックスタイム制の職場で、決まった出勤時間がないのかもしれない。

更には、新型コロナウイルスの流行によって、在宅勤務が増えたこともあるだろう。ドイツで在宅勤務は英語風にホームオフィス(Home Office)と呼ばれ、日本と比べるとコロナ以前からはるかに浸透していた。

在宅勤務であれば、いわば通勤時間がゼロ。時間の節約という面では、これ以上の環境はないですね

コメント

  1. たけまり より:

    日本でも大学生用学生寮とか学資ローンとかもっとやれば少子化減るのにねぇ…一人育てあげるのに3000万とか言われると、もうやる気無くすもの…。

    • Aki Aki より:

      さっき日本からベルリンに戻りました!返信遅くなってごめんね。
      うん、お金がないと子どもを育てられない(良い教育を与えられない)というのはおかしいと思う。ドイツはその点では進んでいる一方、支えになっているのは高い税金のはずだから、もし日本も見習うとしたら色んなシステムを根本から変えないといけなさそうだね〜。

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