日本人にとって不思議がいっぱい
ドイツで働くって、どう?
というのはよく聞かれる質問。一言で答えると、「日本よりも色々と自由」。
学生アルバイトとして、また正社員として、いくつかの職場で働く中で気がついた、何とも不思議なポイントを幾つか紹介してみたい。
① 来るのも帰るのも早い
もちろん接客業などはまた事情が違うが、ドイツの会社は、朝早くから来て、午後早くに帰る人が多い。
私が日本で勤めていた、ドイツ企業の日本法人もフレックス制で、好きな時間に出社OKだったのだが、私はいつも9時までに着くようにしていた。するとたいてい部署で一番乗り。
しかしドイツ本社にしばらく派遣された際、現地の上司から「遅くても9時には来てね」と言われた。そして9時前に着くと、私以外の部署のメンバーは既に揃っていて仕事している。早い人は毎朝7時に出社しているという。早く来て早く帰れば、それだけ家族ともゆっくりできる。
特に顕著なのは金曜日で、15時にはほとんど社員がいなくなる。私がまだ仕事していると、「Aki、もう週末なんだから早く帰らないと駄目だよ」と帰っていく人みんなに心配される始末。
② 昼休み専用の挨拶がある
初めてドイツの会社にやってきたとき、昼休みになると、社内ですれ違う人みんなに“Mahlzeit!(マールツァイト!)”と言われるので、戸惑った。Mahlzeitは、『食事、食事の時間』という意味。
私が新入りだから、「食事の時間だよ!」と教えようとしてくれているのだろうか?でもみんなに揃って言われるっておかしくないか??
不思議に思いながら同僚達を観察してみると、嬉しそうに、古株のドイツ人同士でも“Mahlzeit!”と言い合っている。そこではたと気がつく。
挨拶の一種なのか…!!
外国語としてのドイツ語の授業では習わなかった用法だが、Duden(日本でいう広辞苑)にも、
口語で、昼休みの挨拶。特に職場で用いられる。
と確かに載っていた。まだまだ知らないドイツ語があるなぁと気付かされた瞬間。
③ 『天候のため出社しません』
近年ヨーロッパも異常気象で、夏は30度を超える日が続くことも珍しくなくなった。しかしドイツには未だに冷房というものがほとんど存在しない。もちろん、猛暑の中仕事をしようとするのは、効率悪いことこの上ない。『効率』というのは、ドイツ人達が気にするポイントの一つでもある。
記録的な暑さに見舞われた数年前の夏、私は南ドイツの会社にいた。建物の遮熱性が良いドイツでは、外気温よりも室温の方が低いことが多いので、窓からの直射日光で室温が上がらないように、職場は朝からシャッターを下ろし、電気をつけて、まるで終日夜のような状態だった。
私がいたのは経理部だったのだが、特に暑かった日は、出社してきたのは半数くらい。他の人はといえば、会社よりも家の方がまだ涼しいというので、『暑さのため、本日は家で仕事します』とホームオフィス。krankheitsbedingt(健康上の都合により)出社しない、というのはドイツでも日本でもよく聞くが、klimabedingt(天候の都合により)出社しない、というのは、日本だったら台風の時くらいだろう。
会社としては、社員が効率よく働いてくれることが一番なので、その日になってホームオフィスを申請しても、何の問題もなし。自由である。
④ コーヒーブレイクも勤務時間
日本法人に勤めていた頃、「会社にカフェスペースは絶対に必要です」と駐在のドイツ人達が役員レベルの上層部に熱心に訴えているのを何度か目にしたが、自分がドイツで働くようになって、彼らの気持ちがわかるようになった。
ドイツでは、仕事とプライベートの切り分けがはっきりしている。上司・同僚と勤務時間後に飲みにいく、という、仕事なのかプライベートなのかはっきりしない日本の習慣は、この国ではよほどのことがなければ考えられない。
しかし、仕事上で付き合いのある人達と親しくなるのは、もちろんドイツでも大事なこと。違うのは、チームビルディングを勤務時間内にすることである。
パソコンに向かうばかりの仕事で疲れたら、社内のカフェスペースで同僚達とコーヒーを飲みながら一息つく。私の以前の職場でも現在の職場でも、社員用の無料のコーヒーマシーンが用意されていた。気楽に談笑する中で、信頼関係が深まったり、思いがけない仕事のアイディアが出てきたりする。
休憩のため席を外すのが『サボり』だと思われる日本とは根本的に違う。ドイツの職場では、効率的に仕事を進めるため、仲間と一緒に休憩する場所と時間は必須なのである。
⑤ キッチンで調理OK
ドイツの職場には、たいていフロアごとにキッチンが付いていて、カフェスペースを兼ねている場合もある。冷蔵庫や電子レンジもあり、自分のバターや牛乳などを置いておいて、毎朝オフィスに着いてから朝ごはんを用意して食べる人もいる。
私の現在の職場には一通りの調理器具もあるので、先週「パスタが食べたいね」という話に何人かでなったとき、料理上手なドイツ人男性社員が、部署全員分のパスタをその場で作ってくれた。みんな仕事の手を止めて、会議用の大きなテーブルを食事用にセッティングし直し、しばし全員でランチタイム。
この会社では昼休みが特別に設定されていないので、それぞれ好きな時に適当に何か買いに出掛けたり、ピザなどの出前を取ったり、家から持ってきたものをデスクで食べたりする。このパスタランチも勤務時間内だったので、電話が鳴れば一時的に自席に戻った。
ちなみにこのドイツ人男性、その前には、玉ねぎケーキを家で焼いて持ってきてくれた。フランスのキッシュに近い、食事系のケーキで、軽めのランチにぴったり。
玉ねぎケーキに合わせるといえば、これだよね!
と彼が準備万端に取り出したのは、フェーダーヴァイサー(ぶどう発泡酒)。玉ねぎケーキとフェーダーヴァイサーは、ドイツの秋の味覚とも言える黄金の組み合わせ。
手作りの美味しい玉ねぎケーキをみんなで食べながら、職場でお酒を飲む。これも勤務時間内。なんて、ゆるい。
⑥ 魔法の言葉・Urlaub
ドイツの労働者にとって不可侵のものがある。それは休暇。ドイツ語ではUrlaub(ウアラウプ)という。
ドイツの有給休暇消化率はほぼ100%。有休取得は権利であり義務なので、計画的に消化していかないと、上部から督促されることもある。
有給休暇の付与日数は20〜30日程度と会社によって違うが、少なくとも5日続けて取得することが推奨されている。前後の土日も入れると9連休になる。実際のところは、バカンスに出掛けるドイツ人達は、2〜3週間まとめて休むのが普通。
ドイツ連邦議会の経理部に勤めている私の友人は、この夏、3週間半の休暇を取っていた。日本だったら1週間取るのも大変なんだよ…という話をすると、彼女は目を丸くして、「私は絶対日本では働けない!」と息巻いていた。
私が休んでいる間は同僚達が私の仕事もしてくれるけど、同僚が休んでいる間は私も彼らの仕事をするわけで、お互い様だから何の問題もないの!
そうはいっても、代理の同僚では対応できないことも多々ある。しかしそこは魔法の言葉の出番。「担当者がUrlaubでいない」と言えば、「じゃあ仕方ないね」と相手は引き下がるしかないのがドイツ。
⑦ スーツ姿はレア
日本のビジネス街を歩けば、男女問わずスーツ姿の人ばかりだが、ドイツではスーツを滅多に見かけない。ベルリンで通勤時間に電車に乗っていても、車内に数人いるかいないかというくらい。
ドイツでスーツを着ている人といえば、政府関係者か、銀行員か、保険会社の人くらいだと思う。私の職場も何の規定もなく、ジーンズにスニーカーでOKである。
個人主義の強いドイツでは、各自が無理なく効率的に仕事できることが大事で、休憩も休暇も取らずに働き続けることはよく思われません。日本の労働環境も、もう少し自由になってもいいかもしれませんね
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