日独共通の悩み
この近年、遠く離れているはずの日本とドイツの両方で聞く悩みがある。それは「物価上昇」。

何もかも高くなっちゃって…
という溜め息を、ドイツの首都で暮らす私と、西日本で暮らす母が同じように漏らしているという状況は、少し面白くもあるが、もちろん喜ぶべき状況ではない。
世界的な原材料価格の高騰、人手不足に伴う人件費・物流費の上昇、ウクライナ戦争によるエネルギー価格の高騰…。更に日本に限っては円安が深刻で、輸入価格が上がり続けている。
日本の皆さんも痛感しているインフレを、ドイツ在住者はどのように感じているか。この記事では日常生活での実体験を基にご紹介してみたい。
1ユーロ=100円?
まず、インフレとは関係ない、ドイツでの物価の感覚の説明から始めなければならない。
ドイツの通貨であるユーロは、2026年1月時点のレートでは、1ユーロ=180円前後である。私がドイツに拠点を移した10年前には、1ユーロ=120円前後だったので、現在の円安・ユーロ高がいかに極端かよくわかる。
一方で、日本人であってもドイツに定住している限り、常に1ユーロ=180円と意識しながら物を見ているわけではない。ユーロで収入を得ていれば、1ユーロは今も昔も1ユーロでしかないわけである。
実際の感覚としては、1ユーロ=100円という方が近いだろう。日本では100円と聞くと「安い」と思うように、ドイツでは1ユーロと聞くと「安い」と思う。100円ショップのようにEin-Euro-Shop(1ユーロショップ)も存在するし、日本のスーパーが特売品で「99円」を謳うのと同じように、ドイツのスーパーも1ユーロに満たない「99セント」をアピールする。
例えば私も、定価1ユーロ20セントのチョコレートが99セントに値下げされていると、思わず手に取ってしまう。これは日本でいうと、120円のものが99円になっているときの感覚と近いだろう。99セントといえば、今のレートでは180円近くになるわけだが、ドイツだけで暮らしている分には毎回頭の中で換算することはない。

日常への影響
さて、冒頭の「何もかも高くなっちゃって…」という嘆きに戻ろう。私がドイツの日常生活で特に痛感するのは、レストラン、カフェ、軽食スタンドで何かを注文するとき。
例えば、私もこのブログで短い記事にしたことがある、ドイツの国民食とも呼べるケバブサンドは、2019年の執筆当時は3.5〜4.5ユーロが相場だった。

感覚的には350~450円くらいで、日本で言う「ワンコイン(500円)」以下でボリューム満点の食事になるので、家計が苦しい時の心強い味方でもあった。それが今では、私がお勧めしているRüyam Gemüse Kebabでは7.4ユーロになっている。
特に高級ではない普通のレストランに行っても、昔はメインの料理を10ユーロ代で注文できたところ、今では20ユーロ代が普通だ。ドイツでは更に水などドリンクも注文し、チップも渡す習慣なので、外食すると一度に30~40ユーロはお財布から消えてしまう。
私の義理の祖父母は旧東独出身で、色々なものの値上がりに敏感な人たちだが、最近彼らが「ありえない」と憤慨していたのは、クリスマスマーケットの屋台について。ドイツと言えばまずイメージされるだろう焼きソーセージ(Bratwurst)が、今では5ユーロ以上するのである。

一本の焼いたソーセージをパンに挟んで出すだけのごく簡単な軽食で、10年前は2~3ユーロだったと記憶している。もう気軽に屋台でソーセージも食べられないと思うと、確かに悲しい。

その前から続くインフレの他に、コロナ禍とウクライナ戦争の影響で、一時期はスーパーなどの食料品もかなり値上がりしたが、これは現在ではだいぶ落ち着いてきている。
私がよく買うもので言えば、10年前には安ければ1ユーロで買えたバター(ドイツでは1パック250g)は、数年前には2ユーロを超え、好きなお菓子作りも躊躇する値段に。現在は値下がりして、定価で1.5ユーロくらいが相場となっている。
変化の激しいベルリン
私が初めてドイツの大学に一年間留学したのは2009年。どの町の大学に申し込もうか迷っていると、高校時代からのドイツ人の友人にこう勧められた。

ベルリンにしたら?生活費、他の町よりずっと安いよ
結果的には、受けたい大学のコースがあった南西部のハイデルベルクに行くことにしたが、「ベルリンの生活費が安いって、どういうことなんだろう」とピンときていなかった。東京であれロンドンであれパリであれ、首都こそ一番高いものというイメージがあったからだ。
ハイデルベルクは大学街だが有名な観光地でもあり、物価が高い方だと言われていた。一方で、パンや野菜といった食料品は日本と比べてもずっと安かったので、親からの仕送りがなくアルバイトで貯めたお金が頼りだった私のような貧乏学生でも、外食を控えればあまり無理なく生活することができた。
それからまた月日が経ち、2019年に北東部の首都ベルリンに引っ越すと、実際に物価の安さに感心することになった。カフェでコーヒーを頼んでも、軽食スタンドでケバブを食べても、確かにドイツ南部より安かったのである。

ドイツは再統一されてから35年が経ったが、今でも旧西独と旧東独の経済格差は存在しており、旧東独の方が賃金も生活費も安い傾向にある。飛び地だった西ベルリンを除いて、基本的に旧東独地域の真ん中に位置していたベルリンは、統一後も物価が安い状態が続いていた。
それが、この10年ほどで状況が一変。ベルリンは記録的なインフレに見舞われ、あらゆるものがほぼ倍くらいに値上がりした。特に家賃と、人件費の掛かる外食シーンで痛感する。
家賃はこの10年で倍以上に跳ね上がったと言われている。ワンルームアパートであれば、以前は月額500ユーロで借りられたのが、今ではベルリン市内だと1000ユーロを超えることも珍しくない。私がベルリンに引っ越した2019年時点で既に高騰し始めていて、2009年に友人から言われたほど生活費が圧倒的に安い、という感じはなくなっていた。

カフェでは、2019年には2ユーロ代だったコーヒーが、今では4ユーロ代が普通。夏になるとドイツ人がこぞって食べるジェラートは、1スクープ1.2ユーロくらいだったのに、今では2ユーロ以下で見掛けることはほぼなくなってしまった。

もちろんドイツの他の地域でもインフレは続いていて、元々安かったベルリンでは変化が更に極端に感じられるという話でもある。ドイツ再統一後に再び唯一の首都になってから、ようやく他の地域と同じ水準まで物価が上がったとも言える。時々ハイデルベルクなどドイツ南西部に遊びに行っても、もうベルリンとの差は感じられない。
賃金アップ
ここまで記事を読んでくれた方は、当然ながら、「それだけ賃金も上がっているの?」と疑問に思われただろう。ドイツ連邦統計局(Statistisches Bundesamt)の統計によれば、2024年には、消費者物価の上昇を上回る賃金の伸びがあったとされている。
これはインフレ率が比較的低く抑えられたことによるもので、それまでの数年間はインフレ率に賃金アップが相殺されていたという。
更に2024年末まで、雇用主は任意で非課税のインフレ特別手当を従業員に支給することができた。額は3000ユーロまでで、一回きりの措置だとしてもありがたい。
私は公的機関、夫のベルリーナー・Dは民間企業(本社はオランダ)に勤務しているが、確かに給与はそれなりに上昇しており、物価が上昇していても生活が一気に苦しくなったという気はしない。一方で、これは私たちのアパートの賃貸契約が十数年前からほぼ据え置きになっており、今のベルリンの相場の半額くらいで暮らせているという幸運が大きい。

でもインフレが続くと貯金の価値は目減してしまいますよね…。私たちは思い切ってベルリンで不動産を購入することにしました


コメント