『ラ・シルフィード』- ロマンティックバレエの原点

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特別な作品たる理由とは?

ラ・シルフィード − バレエ好きな人なら一度は見たり聞いたりしたことがあるはずの演目。そしてバレエの歴史を語る上で欠かせない作品でもある。あらすじと、特別なポイントをおさらいした上で、私が実際に舞台で鑑賞して、現代の目線から気づいた点を述べていきたい。

ショパンの音楽を用いた20世紀初頭の『レ・シルフィード』とは別物。フランス語の定冠詞la(ラ)は単数形、les(レ)は複数形であるから、ラ・シルフィードは「(その)一人の妖精」、レ・シルフィードは「(その)妖精たち」の意。

『ラ・シルフィード』は、人間と妖精の叶わぬ恋の物語。

第一幕 スコットランドのある地方、地主貴族の若者ジェームズは、婚約者エフィとの結婚式を翌日に控えている。しかし彼に恋する妖精シルフィードが、彼の夢にも目の前にも現れ、森で一緒に暮らそうと誘うので、どこか上の空。結婚式の準備の真っ最中、占い師マッジが現れ、エフィは結婚して幸せになるが、相手はジェームズではなく、ずっと彼女に想いを寄せている若者グルンだと予言する。怒ったジェームズはマッジを追い出す。エフィとの婚礼に及んで、また現れたシルフィードが指輪を盗んで消えてしまい、ついにジェームズは彼女を追って森の中へ駆けていく。

第二幕 森の中で、シルフィードと、その仲間達と踊るジェームズ。しかし愛しいシルフィードを抱きしめることがどうしてもできない。そこで占い師マッジから、「シルフィードを捕まえられる」というショールを受け取り、彼女の体に巻きつけて抱きしめる。ところがシルフィードの羽が背中から落ち、彼女は苦しみながら息絶えてしまう。一方、消えた新郎を森の中で探し回り、打ちひしがれているエフィに、若者グルンはマッジに急き立てられて求婚する。一人悲しみに暮れていたジェームズは、グルンとエフィの婚礼の行列が通っていく、また死んだシルフィードが手の届かぬ場所に運ばれていくのを目にして、絶望のあまり地に倒れる。

ポイント1:200年近く前のバレエ

『ラ・シルフィード』の初演は、1832年3月12日にパリで行われた。

この年月日にどこか見覚えのあるあなたはドイツ文学通ですね!そう、文豪ゲーテが死去したのが10日後の1832年3月22日です

私たちが現在「バレエ」と聞いてまず思い浮かべるのは、おそらく『白鳥の湖』『眠りの森の美女』『くるみ割り人形』といった、チャイコフスキー作曲のロシア・クラシックバレエだろう。これらの初演が1876年以降であることを考えると、ロマンティックバレエの代表作である『ラ・シルフィード』は、一世代以上前の作品であることがわかる。

ただし、現在も世界中で広く踊られているのは、初演時の振付と音楽ではなく、パリで着想を得たオーギュスト・ブルノンヴィルにより自国デンマーク王立劇場で1836年に上演されたバージョンである。

ポイント2:ポアントワークを駆使

バレエ史上、誰が最初にポアント(つま先)で踊ったのかについては諸説あるが、マリー・タリオーニがその第一人者であったことは間違いがない。彼女こそ、初演時にシルフィード役を踊った伝説的バレリーナであり、その父フィリッポ・タリオーニがこの作品の振付家であった。マリー・タリオーニはポアントで宙を舞うように踊り、これも新しかったロマンティック・チュチュを身に纏い、浮世離れした妖精を見事に表現し、その名をバレエの歴史に刻んだ。

マリー・タリオーニのイラスト
現在の公演でも、シルフィード役がこのマリー・タリオーニと似たポーズを窓辺で取るシーンがあり、いつも感激する

ポイント3:「白のバレエ」の原点

典型的なバレエのイメージといえば、白いチュチュで踊る姿だろう。膝下丈のロマンティック・チュチュは、時を経るにつれて短くなり、横に広がるクラシック・チュチュへと変化を遂げた。しかし純白のコスチュームは、今日までバレリーナの象徴であり続けている。

『ラ・シルフィード』の第二幕で、森の深緑を背景に、シルフィードと18人の仲間が舞う姿は、はっとするほどにコントラストが美しい。まるで真っ白な衣裳が背景から浮き上がっているように見える。これが、「白のバレエ」(Ballet blanc)の原点とされている。

この作品以降、『ジゼル』や『白鳥の湖』でも、夢幻の世界の表現として、白いチュチュをまとった女性ダンサーが群舞を踊るシーンが導入されて、いわゆる正統派バレエのイメージに大きく寄与した。

ベルリン国立バレエの『ラ・シルフィード』

ベルリン国立バレエ、同じ演目を3回観た話で詳しく書いたように、ベルリンでこの作品を繰り返し観ることができた。以下、私の印象に残ったことを挙げていく。

TRAILER: LA SYLPHIDE
公式トレイラー(マリア・コチェトワとマリアン・ヴァルター)
  • 短い上演時間(全二幕・休憩含めて90分)
  • 死んだシルフィードが運ばれていくシーンなど、やや古めかしい演出
  • スコットランドの民族衣装の暗い色調と、シルフィードの真っ白なチュチュのコントラストが美しい
  • エフィがジェームズ(赤いチェックのキルトスカート)でなくグルン(青いチェック)と結ばれたのを象徴するように、彼女のスカートも青いチェックに変わる
  • 振付は繰り返しが多く、比較的単純と言える
  • ピルエットやフェッテなどの回転はほとんどない
  • 占い師マッジ役のキャストに、男性ダンサーと女性ダンサー両方がいる
  • メイン二人のパドゥドゥがない

まず、休憩時間を除くと、長さが1時間ちょっとしかないので、全部で3時間近くある物語バレエを見慣れていると、あっという間に終わってしまう。

ドイツでは、劇場でも映画館でも、笑うべきシーンでは(そうではないかもしれないシーンでも)観客がとにかくよく笑う。それも、クスクスという忍び笑いではなく、ハハハと思い切りよく笑うことも。マッジがいかにも怪しそうな鍋をかき混ぜながら魔法のショールを作っているシーンはともかく、息絶えたシルフィードがブランコのようなものに横たえられ、仲間の妖精に付き添われて天に昇っていくシーン(どこか演出が古めかしい)でも、客席から笑い声が漏れていた。

ベルリン国立バレエの振付は、ブルノンヴィル版を基にして、ブルノンヴィル研究家として著名な、デンマーク出身のフランク・アンデルセンが監修している。

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上のインタビュー(英語・ドイツ語)でも述べられているように、当時はトゥシューズが発明されていなかったので、今のように完全につま先で踊ることはできず、ピルエットも1回転しか回れなかった。もちろんそれらの点は変更されているが、基本的なステップはブルノンヴィルの振付を踏襲しているので、『白鳥の湖』の32回転のような超絶技巧を見慣れた目には、かなりシンプルに映る。バレエのセンターレッスンで出てきそうなアンシェヌマンが多い。

それから、クラシックバレエの父と呼べるマリウス・プティパが生きた19世紀ロシアバレエの作劇法では必須となった、メインの男女二人のパドゥドゥがない。というよりも、ジェームズは妖精であるシルフィードに触れることすらできない。クライマックスにパドゥドゥにあるものと期待していると、あれ、見所はどこだったんだろう、と思ってしまうかもしれない。

まとめ

良い意味でシンプルな『ラ・シルフィード』。クラシックバレエや物語バレエを見慣れていると、少し物足りない感じがするかもしれないけれど、バレエの歴史を語る上で欠かせないこの作品、ぜひ一度は全幕観てみてほしい。内容と振付がシンプルだからこそ、衣裳や舞台背景、ダンサーの個性が際立つ。

あまりバレエを観たことがなかった友人にも、「ロマンティック・チュチュが踊るとふわふわ揺れて、女性らしくて素敵」と好評でした!

コメント

  1. かずまさ より:

    白鳥の湖のような派手さは無い作品ですけど、
    僕はちょっと小休憩したい時にはよく観ます。
    終幕はいつ観ても切ないですね、、

    • Aki Aki より:

      ある意味とってもバレエらしいバレエですよね。シルフィードが魔性の存在ではなく、純粋な恋心からジェームズに近づいていった結果の悲劇、というのが、余計に切ない。。。

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