ドイツ人から見た、日本のすごいところ③

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サービス要員の多さ

前回までも、当たり前と思ってしまい気付きにくい日本のすごいところを扱ったが、他にもまだまだある。私と一緒に日本で3週間過ごしたベルリーナー・Dの目線から、「これはドイツではありえない」と思う点をこの記事でも紹介して、シリーズ最後としたい。

まず、前回の記事で書いた日本のサービスのきめ細やかさと関連してくるが、働いている一人一人の意識が高いということの他に、そもそもドイツとはサービスの体制が違うことに、今回の一時帰国で気が付いた。日本の方が数の上でも圧倒的に手厚いのである。

私とDが目を丸くしたのは、ドイツから羽田空港の国際線ターミナルに着いてすぐだった。新型コロナウイルスの検疫手続き(その時期はMy SOSアプリを使用)の事前登録情報チェックのため、ずらっと並べられたデスクに大勢の係員が座って待ち構えていたのである。飛行機から降りてきた乗客が一気に押し寄せても、「次の方どうぞー!」と次々にデスクへ案内されるので、待たされることなく確認終了。

そして、検疫審査完了という色紙をもらい、それを手に持って入国審査へ向かうべく空港内を歩いていくと、通路の壁には蛍光色のベストを着た係員がまたずらっと並んでおり、「検疫が終わった方はまっすぐお進みくださいー!」と次々に声を掛けられる。

まるで沿道から応援されるマラソン選手のよう…!

空港での係員は多すぎると思うくらいだったが、このように日本では往々にして十分すぎるほどの人員を確保していることが、サービスの速さと満足度に繋がっていると思う。

日本からドイツへ戻るときも、空港のカウンター周辺には航空会社の人達が何人も控えていて自動チェックイン手続きを手伝ってくれた。搭乗前の手荷物検査も待たされることなく、すべてスムーズに進み快適。

最新式のベルトの上に横向きに乗せられた大きなスーツケース
手荷物カウンターも自動化が進んでいる

逆にドイツでは、サービス要員がどう考えても少なすぎると思う場面がしょっちゅうある。今回の往路も、ベルリンから経由地のヘルシンキまではヨーロッパの航空会社だったのだが、なぜかカウンターが2つしか開いておらず、チェックインできるまでに1時間近く列で待たされた。

ロンドン経由だった復路では、ベルリン行きのフライトに乗り換える際、すでにDは「日本へ戻りたい…」と切実につぶやいていた。ヒースロー空港の手荷物検査のレーンで延々と待たされ、係員の人達はぶっきらぼうで、遅々として乗客の列は進まないのにお喋りしているし、日本の空港と真逆のような印象だったのである。

サービス要員が不足しているという印象を受けることは、ドイツでは日常生活でもよくある。割と広いカフェでもウェイターが一人しかおらず、テーブル会計をお願いしようにもなかなか来てもらえなかったり、役所で長い列ができていても追加で窓口を開けてくれなかったりする。

クリスマスツリーが綺麗な天井が高いカフェ
もちろんドイツではどこでもサービスが悪いというわけではない。例えばベルリンの『コーヒーハウス・ダルマイヤー』は、きちんと接客の教育を受けたとわかるスタッフチームが気を配ってくれ、いつも安心感のあるサービス

いつでもお店が開いている

かつて私がドイツ企業の日本法人に勤めていた頃、ドイツ人の駐在員で、

日本に来てから冷蔵庫を持っていないんだ。アパートの下がコンビニだから

という同僚がいたが、確かにそれでも生活できてしまうくらい、都市部では至る所にコンビニがある。

この「いつでも買い物できる」という環境は、外国で暮らし始めてからその便利さに気付くものの一つである。ドイツでは日本のコンビニのような24時間営業のチェーン店はないし、日曜日にはほとんどのお店が閉まってしまう。衣類などのショッピングも日曜日はできないので、金曜日までの仕事で疲れていても、出掛けようとするとどうしても土曜日になる。

日曜日はスーパーも開いていないため、週末に何を食べるか事前に考えておいて、土曜日までに食料品を買っておかなければならない。

日曜日に何か料理しようとして、「あっ、材料が足りない!」と気付くと結構ブルー…

日本ではちょっと小腹が空いたときにも、時間と曜日を選ばず、コンビニでスナックを買って休憩できる。夜勤がある人にとっても非常に便利だろう。私たちも観光の途中にアメリカンドッグをほうばった。

ケチャップとマスタードがかけられたアメリカンドッグ
「片手で半分に折るとケチャップとマスタードが同時に出てくるこのパック、画期的!」と喜ぶD

ところで、時々日本へ帰ると、「何を食べても美味しい」ことに感心する。人気のお店に行かなくとも、スーパーやコンビニで数百円で買える特別ではないものがすでに美味しく、クオリティの標準値が高いと思う。アメリカンドッグの他にも、中華まんや唐揚げ、シュークリームなどの手軽なスナックを、「ドイツにもあったらいいのになぁ」と思いながら色々と食べた。

某コンビニチェーンで買った「北海道産かぼちゃのモンブランプリン」
「コンビニスイーツをなめちゃいけないよ」と私が某コンビニで買ったデザートを半信半疑で食べたDも、「ほんとだ、美味しい!」と目を輝かせていた

礼儀と思いやり

その他にDが関心していた日本の側面の一つは、「誰もが周りに気遣っている」こと。おそらく無意識に行っている日本人がほとんどだと思うが、例えば電車やバスを利用するときに、ドイツとの違いを感じる。

日本では、乗る時にはまずドア横で待って降りる人を先に通したり、席は奥からつめて座って荷物は膝の上に置いたり、他の人の邪魔にならず全体としてうまく機能するよう気を遣う。一方ドイツだと我先にと乗り込む人もいるし、二人掛けの席の通路側に座って窓側に荷物を置いており、他の乗客に「横に座ってもいいか」と聞かれてようやく窓側に移動する姿もよく見掛ける。

バスの一番後ろの座席から撮影した車内の様子
雪の降る寒い朝、ベルリン中心部へ向かうバスの中で。通路側の席に座る人が多いことは私にとって未だに謎

また、混んでいても車両の奥の方まで進まずにドア付近で立ち止まってしまう人が多く、センサーが反応してドアが閉まらなかったり、他の人の乗り降りの邪魔になったりすることも。これはドイツ在住の日本人の友人たちとも「不思議だね」とよく話題になる点だ。

満員の電車やバスに揺られることが日常となっている日本では、混み合った車内でどう振る舞うべきかは、共通認識として自然と身につくものなのかもしれない。こういった、日本では当たり前の“マナー”と呼ばれるものが、実は世界標準ではないということに気付かされたのは、私も外国で生活するようになってからである。日本の車内では基本的に通話禁止で、非常に静かだが、ドイツでは大声で電話していたり、ボイスメッセージを吹き込んでいたりする人をよく見掛ける。

少しレトロな感じがあるバスと、背景には紅葉が綺麗な山
四国周遊旅行中には電車とバスをフル活用した。小豆島の「オリーブバス」も一日乗車券を購入

気遣いといえば、今回の一時帰国で私の印象に残っているのは、四国の町でバスを待っていた朝のこと。バス停に一つ置かれたベンチの右端には年配の女性が腰かけていた。私たちは荷物も少なかったので、後ろで立って話していたのだが、その声に気が付いた女性ははっとしたように、更に体を右にずらしていき、右横に置いていた彼女の荷物がベンチからずり落ちそうになるほどだった。私たちは慌てて「大丈夫ですよ」と声を掛けた。

乗客のマナーに関してではないが、その他にDが「かっこいい…!」と感動していたのは、四国で特急電車に乗っていると、検札などで車両に出入りする車掌さんが、乗客の方を振り向いて丁寧にお辞儀してくれること。確かに、「Die Fahrkarten, bitte!(切符を出してください!)」と検札にドシドシ入ってくるドイツ鉄道とはだいぶ印象が違う。

ありふれた風景の魅力

ここまではメンタリティに関わる話が多かったが、最後に日本の風景についても記しておきたい。Dが写真を撮っている場所を見ていると、「そうか、外国の人の目にはこんな何気ないものが魅力的に映るのか」と私にとっても面白い発見があった。

外国人に人気のあるスポットとして代表的なのは、渋谷のスクランブル交差点。東京都出身の私にとっては珍しいものではなく、「次の目的地へ向かうためにさっさと渡るべき交差点」でしかなかったのだが、久しぶりに帰国してここへ来ると、四方八方から人の流れが押し寄せてきて、それなのにぶつからず交差して各々の方向へ進んでいくこの迫力には、確かに鳥肌が立つようなものがあった。

今回の一時帰国では渋谷の近くに一週間ほど滞在していたのだが、Dは「何回来ても渋谷はスゴイ」と言う。スクランブル交差点以外にも、溢れかえるカラフルな看板や、宣伝カーの耳に障る音楽や、あらゆる視覚的・聴覚的な喧噪に圧倒される。確かにドイツにはこんな場所は存在しない。

夕焼け空に影になって浮かび上がる富士山と、渋谷の高層ビル街の夜景
360度ビューの展望空間『SHIBUYA SKY(渋谷スカイ)』にも在日シンガポール人の友人の勧めで行ったところ、外国人のお客さんが圧倒的に多かった。夕焼けに浮かび上げる富士山と東京の街並みは圧巻

雨の日に歩いた新宿でも、意外な魅力を再発見した。Dが横断歩道の真ん中で写真を撮り始めたので、私も振り返ってみると、雨に濡れた道路に反射したネオンがきらきらと輝いて綺麗。

傘を差している人達が横断している広い道路
一人だったら足早に通り過ぎるだけだっただろう新宿の大通り

ちょっとした脇道でも、Dが写真を撮り始めたところで私もカメラを構えてみると、確かに不思議な情緒と魅力がある。

歩行者用の狭い並木道
雨に濡れた歩道は、モザイクのような敷石の模様が芸術的

以前だったら雑然とした印象を受けるだけだったに違いない、居酒屋が立ち並ぶ横丁でも、日本語の看板を一度にたくさん見るのが久しぶりだったからか、ある種のノスタルジーを感じた。

狭い路地に立ち並ぶ複数の飲み屋は、街頭にうっすらと照らされている
新宿ゴールデン街にて。日が暮れたばかりでまだお客さんがおらず、ひっそりとしている

すごいところ=良いところ、ではない

外国人の目線から見ると、日本人にとっての当たり前が当たり前ではなく、その快適さ・便利さ・綺麗さに気付かされる。ただし、ここまで一連の記事で扱った「日本のすごいところ」は、もちろんメリットとデメリットが表裏一体である。

素晴らしいサービスは、どんなに面倒くさいお客さんが来ても、それを顔には出さず対応しなければならないというサービス側のストレスの上に成り立っているし、お客さんの少ない時間帯も含めて24時間お店を営業するのは、エネルギー消費を増やし環境に優しくないという見方もあるだろう。常に周りに気を遣って調和を乱さないようにする文化は、個性を抑圧して同調を強いることにも繋がる。

日本とドイツのどちらの方が優れているかという話ではなく、その違いを受け入れて尊重するという姿勢を大切にしたいですね

コメント

  1. 浜須ホイ より:

    こんにちは。
    四国の奥地まで行ったことがないので、旅行の様子を楽しく拝見しました。

    日本は生産性が低いと言われます。ガラパゴス化したデジタル分野での遅れもありますし、それと”おもてなし”の心はよいのですが、サービス過剰もありそうな気がします。極端な言い方になりますが、生産性か手厚いサービスかどちらがよいのでしょうか。 

    日本のコンビニ・スーパーの食品は確かにほぼどれも美味しくなってきました。料理研究家の方によると、一口食べてすぐに美味しく感じさせるように味が濃くなっているという話を聞きました。塩分・糖分には気をつけた方がよいのかも知れませんね。 
    また、ドイツではスーパーや商店が日曜休みというのは何かで聴いたことがあります。土曜日までに買い物した方が店も効率的で良さそうに思えます。ただ、月~金曜日が多忙で土曜日に疲れているときは辛い日程になりますね。

    渋谷スクランブル交差点ですが、雨の日に皆が傘をさしているようなときでも、傘を上げ下げして上手く流れていくそうですね。雑踏での欧米人との違いは、日本人は半身の体勢をとる点かも知れません。TVでドイツから来た人が半身とは何?と言う話から、「半身にはならない」と言っていた記憶があります。

    ウクライナの戦地は寒さが厳しそうです。一方でこの冬の欧州は暖冬?という話も耳にしました。ドイツは如何なのでしょうか?エネルギー需給が厳しそうですが、暖冬なら少しは暖房をセーブできているのでしょうか。

    では、またいつか。 

    • Aki Aki より:

      こんにちは、いつもコメントありがとうございます。

      日本はハイテクと言われる側面もありながら、『ハンコ文化』に代表されるように、実際にはデジタル化で遅れを取っていますよね。
      生産性や効率か、手厚いサービスか、難しいところですが、バランスが大事なのかもしれません。

      なるほど、一口食べてすぐに美味しく感じさせるように味が濃くなっているのですね!
      ダシのように、日本では奥に潜んでいる旨味?が美味しさの決め手と思っていましたが…。
      確かにドイツでも味がハッキリしているものが好まれる気がします。肉料理などはかなり塩が効いていますし、お菓子はこれでもか!と甘いです。健康には良くないですね^^;;

      ちょうど今日(日曜日)までしばらく出張でミュンヘンにいたのですが、ベルリンより更に日曜日は何も開いていなかったです。。。
      スーパーやショッピングモールはもちろん、人気のケーキ屋さんやカフェも休み。お土産を買えませんでした。

      
確かにドイツ人は半身という概念を知らなそうです。
      ドイツは基本的に右側通行なので、反対方向から歩いてきた人とすれ違う時には、右に避ける人が多い気はします。

      ドイツも寒波が来たり、寒さが緩んだり、週ごとに天気がコロコロ変わっています。今日のベルリンは最高気温8度、最低気温2度とそんなに寒くないですが、最高気温も氷点下という日が続いた週もありました。
      光熱費の高騰はヨーロッパ中で問題になっていますね。まだ昨年度の請求書が届いていませんが、戦々恐々として待っているところです。

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