バレエレッスンで見える日独の違い

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ベルリンで続けるバレエ

久しぶりにドイツのバレエレッスンについて記事を書くことにした。バレエ経験者以外には需要がないかと思っていたのだが、掘り下げて考えてみると、日独のメンタリティー文化的な違いも見えてきて、意外に面白いかもしれないと思ったのだ。

私が週3回バレエレッスンを受けているベルリンの教室は規模が大きく、3つのスタジオがあり、バレエを教えている先生だけで10人以上いる。他にもヒップホップ、ブレイクダンス、ズンバといった違うジャンルのレッスンも豊富である。

まだ人がほとんどいないレッスンスタジオ
日本で通っていた教室の3倍はありそうな、広々として天井も高いスタジオ

私が習っている先生はドイツ人女性イタリア人女性だが、何らかの都合でレッスンに来られないときには、他の先生が代理で教えてくれる。先生方はアメリカ人男性、アルゼンチン人女性、ドイツ人男性などと国際色豊か

これはドイツの中でもベルリン特有だと思うが、先生自身がドイツ語を話さなかったり、参加者の多くが外国人だったりして、レッスンが英語で行われることもよくある。

実力以上のクラスに参加?!

日本との違いとしてまず思い浮かぶのは、一つのクラスの中に様々なレベルの参加者がいること。

基礎を身に付けるまでにも長い年月がかかるバレエでは、プロと入門レベルで、文字通り天と地のような差がある。そのためバレエ教室の大人向けクラスでも、入門・初級・初中級・中級・中上級・上級・プロと、レベルが細かく分かれている。

日本では初級レベルのクラスに行っても、明らかに「初級ではないよね」と思うような、上手な人がいることが多い。実際の自分のレベルよりも少し下のクラスに行く傾向がある印象を受ける。これが日本人らしい謙遜の精神なのか、難しいクラスで周りについていけず恥ずかしい思いをしたくないという恐れなのかは、人によるだろう。

そういう私自身も、もう15年もバレエを続けながら初中級〜中級のクラスに出ているが、それは参加者の中では自分が一番できるという優越感に浸りたいわけではなく、単に自分が完璧主義者だからである。難しいクラスで全部を半端にしかできないよりも、一通り頭でちゃんと理解できて、ついていけるクラスで完璧さを目指す方が性に合っているのだ。

本当はちょっと背伸びして上級クラスに行き、できるだけがんばってみるという方が、上達がはやいのはわかっているのですが…

一方でドイツでは、日本と逆の傾向がある。まだ基本のポジションもままならないような入門〜初級レベルと思われる人が、初中級クラスに来ていることも多い。バーレッスンは周りを見ながらなんとか最後までやっても、センターレッスンの途中からついていけなくなり、後ろで他の人たちが練習しているのを見学している。もちろん見ることも大事な勉強なのだが、もったいないな、ちゃんと基礎を固めてから上のクラスに来たらいいのに、と個人的には思ってしまう。

また、私と同じ初中級のクラスにも来ている実際には中級くらいの人たちが、プロ向けのクラスにも出ていることにも驚かされる。基本的にはプロダンサーやバレエの先生向けなのだが、かなり背伸びして来ている人がいても、先生も嫌な顔をせずに受け入れている。もちろん先生もプロなので、その日の参加者の顔ぶれを見てレベルを微調整してくれる。

私もプロレベルの人たちと一緒にレッスンをしてみたいと憧れる一方で、自分が参加することでクラス全体のレベルを下げてしまうことも申し訳なく、その勇気がまだ出ない。ドイツ人の仲間たちのように、自分の実力とは違っても出たいレベルのクラスに出る、と割り切るには、やはり日本人的な思考が邪魔になるようだ。それは遠慮とも呼べるし、周りの目を気にすることでもあるし、自分個人のために全体を乱したくないと思う全体主義でもあるだろう。

バーレッスンで横にストレッチをしている参加者たちと、指導している女性の先生
ベルリン国立バレエのワークショップにて。経験者であれば誰でも参加できたが、やはり上手な人が多かった。写真上部の後ろ姿が私

音楽性と記憶力

日本と比較してみて気がつく次の違いは、参加者の音楽性、特にリズム感である。私は自分が音楽性に優れていると思ったことはないが、自然に拍を数えたり「イン」「アウト」の違いを理解したりはできる。それを日本では普通だと思っていた。

ところが、ドイツでバレエレッスンを受けるようになってから、その普通だと思っていたことを、他の参加者たちがあまりできていないことに驚いた。ちゃんと音楽に合わせようとはしているはずだが、拍を数えているわけではないので、8拍でする動きなのに7拍で終わらせてしまったりして、動いているうちにズレていってしまうのである。子どもの頃に楽器を習ったりしてリズム感を鍛える機会がなかったのかもしれない。

また、私の個人的な印象だが、ドイツでは日本よりも楽譜を読める人が少ないと思う。私の周りのドイツ人たちでいうと、ギターを習ったことがありコードを弾ける人はいるが、楽譜を読める人はほとんどいない。どうやらこれは、技術よりも感性に重点を置くドイツの学校の音楽教育にも関係しているらしい。

日本では小学校でも楽譜を見ながらリコーダーを吹いていた記憶があるし、子どもの習い事の筆頭としてピアノが挙げられるように、学校以外で楽器を習う人も多い(私自身も幼稚園児の頃にピアノを始め、ひらがなよりも先に譜面を読めた)。

それから、バレエレッスンといえば、音楽性と並んで記憶力と集中力を試される場所でもある。先生がお手本を見せたり口頭で説明したりする練習の順番を、その場ですぐに覚えないといけないからだ。バーレッスンでもセンターレッスンでも、先生の説明の後に音楽がかかり、言われた通りに実際に練習する段になると、「あれ、最初に出すのは右足だっけ、左足だっけ」と迷子になってしまう参加者が少なくない。

もちろん誰でも順番を間違えることはあるが、私が周りを観察している限り、概してドイツ人よりも日本人の方が順番や振り付けを覚えるのが得意だと思う。もしかすると、よく批判の的となる暗記型の日本の教育は、短期の記憶力と集中力を鍛えるという面で、バレエでは役に立っているのかもしれない。

私がハイデルベルクからベルリンへ引っ越す時、ハイデルベルクで通っていたバレエ教室の仲間たちから「Akiがいなくなったら順番をカンニングできなくなって困る〜!」と口を揃えて言われたのには苦笑した(もちろん本当は一人一人が順番を覚えるべき!)

ハイデルベルクでの最後のレッスンにて。お世話になったイギリス人の先生(私の右)と仲間たちが、花束と写真をプレゼントしてくれた

レッスン着に見える違い

そして、レッスン着にも日独で違いが見られる。日本でも大人向けクラスでは基本的にレッスン着の指定はないが、それでもレオタードに、ショートパンツか巻きスカート、バレエ用タイツ、ピンク色のバレエシューズで来る人がほとんどだと思う。

ドイツではレッスン着も十人十色。ジョギングに行くような格好で参加している人も、逆にタイツにレオタード一枚という年配の人もいる(体型を隠したがる日本人としては巻きスカートでもないと落ち着かないだろう)。普段用の黒タイツを履いている人もいれば、黒いバレエシューズの女性も多いし(日本では男性が履くイメージである)、とにかく何でもあり。

また、バレエ経験者の人は頷いてくれると思うが、欧米のメーカーのレオタードには胸パッドが付いていないので、胸が透けてしまう。確かにバレリーナ体型であれば体脂肪が少なく胸も小さい人が多いとはいえ、私はやはり抵抗があるので、レオタードはいつも胸パッドありの日本製のものを着ている。ドイツでは夏になると、街中でもほぼ下着のような短いキャミソールとミニスカートで歩いている女性をよく見かけるが、日本人と比べて体のラインを見せることに抵抗のない人が多いのだと思う。

扇子を持ってトゥシューズで立ち、ポーズを取っている参加者6人
ベルリンのスタジオで、ドイツ人、フランス人、中国人の仲間たちと(右端が私)。この日はみんなレオタードだった

最後に。これはバレエをしている人にしか共感してもらえないかもしれないが、まだ日本人らしい感覚が消えない私も、

最近「ヨーロッパに感化されてきたなぁ」と思ったのは、バレエ用タイツを履いてからレオタード、ではなく、レオタードの上にタイツを履くようになったこと…

欧米のバレエ団の練習風景などを見ていると、タイツをレオタードの上に履いているダンサーの割合がかなり高い。私が通っているバレエ教室でも、どのクラスに行っても必ず何人かはタイツが上という人がいて、特に上級者に多い印象である。

私も最初は「え…」と思ったが、試しにやってみるとウエストゴムが気にならず確かに快適。ドイツに生活拠点を移して8年目。様々な日独の違いに気付かされるバレエレッスンでも、私は少しずつドイツの自由さに馴染んできているのかもしれない。

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