アイスランド紀行③:スーパー・ビール・温泉・サメ肉

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買い物事情

前回の記事ではキャンピングカーでの生活について紹介した。今回は現地の人々の日常を垣間見られた経験にスポットをあててみたい。

物価が高いアイスランドでなるべく安く旅行しようと思うと、外食は控えて自炊することになる。私達も時々は何かテイクアウトして食べたが、基本的には食材を買ってキャンプ場で簡単に料理した。それでもドイツの倍近くかかる印象だったが、元々の物価の高さと、野菜や果物など多くのものが輸入されていることを考えれば無理はない。

夕日が沈む海岸で、キャンピングカーの後ろに出されたテーブルとコンロ
海岸沿いにあるキャンプ場で、夕日を眺めながら調理

スーパーの中でも価格帯が低めの何ヶ所かに行ってみたが、私達が一番気に入ったのはKrónan(クローナン)というチェーン。陳列の仕方も整頓されていて見やすいし、プライベートブランドの商品を探せばドイツと比べてもそこまで割高ではない。

スーパーマーケットの入り口
黄色い看板が目印のKrónan

アイスランドで一番安いと言われれているチェーンはBónus(ボーヌス)である。ちょっと不細工なピンクのブタがマークになっているこのスーパーで、私がびっくりしたのは、冷蔵コーナーが部屋ごと冷やされていること。

さむっ…!

知らずにうっかり薄着で買い物に行ったところ、寒すぎてゆっくり商品を見られなかった。次からBónusに行くときはジャケットを着ていったが、仕事で他の国に住んだことがある同居人Dによると、この“冷蔵室”は北欧では度々見掛けるシステムらしい。

棚に積まれた肉などの商品
冷蔵庫の中に入ったような寒さ。肉や魚や乳製品などが所狭しと並ぶ

アイスランドのスーパーで私達が何度も買ったのは、Skyr(スキール)というヨーグルトのような乳製品。低脂肪&高タンパク質で、最近ではドイツでも注目されはじめているが、本場ではフルーツ・チョコレート・クリームブリュレなど様々なフレーバーがあって楽しかった。

お酒事情

長時間の運転とハイキングを経て、キャンプ場に到着し、ほっと一息。ビールでも飲みたいと思う人も多いに違いないが、実はアイスランドでお酒を買うことはそう簡単ではない。スーパーでは売っていないのである。

お酒は専売制になっており、Vínbuðin(ヴィーンブージン)という国営の販売店でしか購入できない。しかも営業時間が曲者で、日曜日は閉まっており、店舗によっては平日も2時間しか開いていない。よほどアイスランド政府は国民にアルコールを飲ませたくないものと見える。

お店の入り口に書かれた営業時間
私達が行った店舗は、月〜木は午後4~6時しか開いていなかった。仕事をしている人はなかなか買いに行けないに違いない

アイスランドでは20世紀前半までビール禁止令が敷かれていたそうだが、現在は地ビールも多数あり、どれもパッケージが可愛くて見ているだけで楽しい。しかし税金が高く、1缶400円くらいするので、お土産にしたい場合には空港の免税店で買う方がお勧めである。

キャンピングカーのテーブルに並べられたビール5本
カラフルで可愛いパッケージ

ワインなどは輸入品ばかりだったように思う。私はビールに詳しくないので多くを語れないのだが、Vínbuðinを見つけてはアイスランド産ビールを試していたD曰く、ドイツでもなかなか出会えないほど美味しいビールもあったそうだ。

その他、もちろんレストランやバーでもお酒を飲めるが、ビール一杯1000円以上するので、ビールが水より安いことがあるドイツから来た人にとっては目玉が飛び出そうになる。

温泉

火山活動が活発なアイスランドで、有名な観光地といえば大規模な温泉施設の「ブルーラグーン」。入場に5~6千円必要だが、時間制限はないので、水中バーで買ったドリンクを楽しみながら何時間でも温泉に浸かれる。ここは99パーセント外国人観光客しかいないと言っていいと思う。

山が見える場所にある、乳白色がかったブルーの屋外温泉
湯加減はぬるめで、どちらかと言えば温水プールのよう

しかしそれ以外にも、自治体が管理している小さな温泉が幾つも点在している。基本的には無料で、寄付を入れるボックスが置かれていることが多い。私達も幾つか巡ってみたが、海辺にあったり、山奥にあったり、それぞれ個性的だった。基本的にどこも水着着用である。

三角屋根の小屋の前にある、鍵穴のような形をした温泉
可愛い小屋のような着替えスペースがある温泉。Dの貸し切り風呂状態

水の綺麗さや熱さも様々。近くにシャワー室があり、温泉に入る前後に体を流せるところもあれば、着替えのスペースもなく、大きな浴槽がぽつんと置かれているだけのところもある。

海が見える場所にぽつんと置かれた湯船
大自然の中に突如として現れる湯船。観光客にも人気のようで混んでいた

つい長居してしまったのは、Drangsnesという北西部の町にある温泉。途中で管理人らしい地元の人が顔を出し、「お湯の加減はどう?」と熱さを調節してくれた。湯船も清潔に保たれていて快適である。

海のすぐ隣に置かれた浴槽で温泉に入り、海を眺めている後ろ姿
海を見ながら温泉に入っていると、まるで海に浸っているかのような錯覚を覚える

変わり種としては、天然の温泉の川が流れているReykjadalur渓谷。駐車場から山奥に向かって1時間ほど歩かないと辿り着かないので、ちょっとしたハイキングにもなる。風除けのような板で仕切られたスペースはあるが、個室はないため、服の下に水着を着てから向かうのがお勧め。

山の奥から湯気をあげて流れている温泉の川
水が浅いので横になって全身を温める

アイスランド人の健康法?

私達は観光目的でアイスランドの名所を巡っていたので、当然ながら他の外国人観光客に囲まれていることが多かったが、首都レイキャビク近くの山Esjaでは、アイスランド人と思われる人をよく見かけた。どうしてわかるのかと言うと、軽装で(登山靴ではなく普通の運動靴)、イヤホンで音楽を聞きながら黙々と一人で歩いていたり、犬を連れていたりするからである。

この山は岩が多く景色が割と単調なので、観光地としてそこまで知られているわけではないのだが、首都から近いという立地がメリットで、私達も時間が余っていたので立ち寄ってみたのだった。

蛇行した道の向こうに見える街並み
遠くにレイキャビクを一望できる

地元の人(と思われる)は私達と比べても歩くスピードが格段に速い。フィットネスクラブに行かなくても、こうやって日頃から登山していれば健康でいられるはずだねぇと話しながら、私とDが蛇行しながら上っていく登山道を息を切らせつつ歩いていると、信じられないようなものを見た。

ステッキを持った細身のおじいさんが、登山道ではなく、急な山の斜面を真っすぐに颯爽と登ってきたのである。私達が驚いている間に、登山道を横切ってどんどん上まで進み、あっという間に霧に隠れて姿が見えなくなった。まるで仙人のよう!

そり返って見上げるような急斜面を登っていく、姿勢の良いおじいさん
急斜面をものともせず、ひょいひょい登っていくおじいさん

地元の人との交流

各地のキャンプ場で寝泊りするなかで、その町や村で生まれ育ったという地元の人達とも言葉を交わす機会があった。一番印象深かったのは、東部の小さな漁村Djúpivogurで過ごした晩である。

青空の映る水面に並んだ複数の白い船
穏やかな水面の入り江に並んだ船が美しい

近くのホテルが管理しているキャンプ場だったので、ホテルの受付まで支払いに行くと、非常にフレンドリーな中年の男性が対応してくれた。生まれてから数十年間、ずっとこの村で暮らしているのだという。その時は連日晴天だったので、天気の話になると、

アイスランドでこんなに天気がいいことって本当に珍しいんですよ!お年寄りはみんな心配し始めてます

と言うので、私は「気候変動の影響かもしれないしね」とすんなり思ったのだが、Dは「こんなに天気がいいなんて、天国が近づいているんじゃないか」とお年寄りが不安になっていると解釈したらしい(なんて穿った見方!)

そして早めの夕食を食べた後にぶらぶら村を歩いていると、大きな黒い犬がしっぽを振りながらこちらに向かってきた。私とDがちょっとびっくりしていたところ、向こうの方から、「恐がらなくて大丈夫!」という声がした。見れば、家の前の庭でおじいさんが煙草を吸っており、犬は彼が飼っているらしい。

英語を話す人だったので、しばらく立ち話をしたところ、この村で生まれて10歳くらいから漁に出るようになり、50年間漁師として船の上にいたのだという。今は引退して家で静かに暮らしているそうだ。仕事でドイツにも何度も行ったことがあるとのことだった。

君たちはサメを食べたことがある?」と聞かれたので、「ないです、アイスランドの名物だとは聞いていますが」と答えたところ、「じゃあちょっと来なさい」と庭にある納屋に案内された。

そこにあったのは、発酵したサメ肉を数ヶ月吊るして乾燥させたアイスランドの名物、ハカール

天井の梁から吊るされた大きな肉の塊3つ
これがどんな強烈な食べ物なのか、詳細はWikipediaの情報をどうぞ

その端をナイフで切り取って、私とDに一欠片ずつ渡してくれた。まだ乾燥途中のようで、意外に柔らかくしっとりしていた。匂いは強烈だが、食べてみると味と食感はそれほど異様なものではない。消化に良いので毎日食べるというお年寄りもいるそうで、彼の義理のお母さんも毎晩欠かさず食べていたそうだ。

私とDに「どう?」と聞いたおじいさんは、私達がなんとコメントしたものか迷って「面白い味ですね」と答えたので笑っていた。決して不味くはないのだが、美味しいかと聞かれるとすぐに首を縦に振れるか微妙なところである。

おじいさんは「よく外国から来た人に食べさせてみてるんだ」という。恐らく一日だけこの小さな漁村に立ち寄る、私達のような外国人観光客との交流を楽しみにしているのだろう。

ちなみに私達が食べきらなかったハカールは、おじいさんがポイっと投げると犬が大喜びで食べていた。アイスランドの犬はサメも好物らしい。

おじいさんにお礼を言ってお暇し、私達はその後キャンプ場に戻って何度も手を洗ったのだが、サメ肉を数秒間持っていただけのはずの指が、ずっと臭かった。

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