もしドイツで亡くなったら

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海外在住者として考えること

もしドイツで急に死んでしまったら、私の身体はどうなるのだろう、ということをよく考える。私はこちらに身内がおらず一人なので、尚更である。

若い人でも、何があるかわからない。事故に遭うかもしれないし、思い掛けず犯罪に巻き込まれるかもしれないし、いくら健康に気をつけていても、急に病気になるかもしれない。これはどの国にいても同じである。

私はまだ日本にいた頃、高校時代からの親友が、20代後半で急に他界するという経験をして、『死』というものを身近に感じ、よく考えるようになった。

先日ベルリンで、長く葬儀の仕事をしていたドイツ人女性から、葬儀までの一通りの流れを聞く機会に恵まれた。非常に興味深いお話だったので、記事にまとめたいと思う。

教会の祭壇前の床にある、バッハのプレートと、供えられた花
ライプツィヒのトーマス教会にある、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの墓

社会保障局の仕事

例えば、一人暮らしの人が、アパートでひっそりと息を引き取ったとする。

連絡が付かないので心配になった隣人や友人や同僚が、大家に鍵を開けてもらい、息をしていない体を見つけると、パニックになりながらも、それぞれその時に思いついた緊急電話番号に連絡するだろう。救急車でも、救助隊でも、警察でも良いのだが、彼らは連携しているので、他殺の可能性がゼロではないと電話口で判断された場合には、半ば自動的に警察官も一緒にやってくる。

現場で医師が死因を検査している間、警察官(たいてい2人だそうだ)は基本的にじっと見ている。他殺ではなく、病気で死亡したと判断された場合、それからの手続きは社会保障局(Amt für Soziales)が引き継ぐ。

まず社会保障局は、葬儀屋・火葬場・墓地に連絡をし、遺体を運び出させる。故人の家をくまなくチェックし、親類がいるという手掛かりが見つからなければ、社会保障局、つまりドイツが費用負担して埋葬することが決定される。逆に言えば、ドイツに配偶者や、子どもや、兄弟などの親類がいる場合、その人達が葬儀代を出さなければならない。

ここで、日本人にとってポイントなのは、社会保障局は、ドイツ国外にいる親類までは追わないということ。例え日本に兄弟が健在であっても、費用負担を迫られることはないのでご安心を。

銀行口座や保険の解約とかはどうするんだろう?と思った方も、心配はいらない。全て社会保障局が手続きしてくれる。ただし、親類がいない人の場合、口座の残金などの残された財産は、全て社会保障局が回収する。住居の引き払いの手続きもしてくれるが、まず貴重品もやはり回収される。

つまり、親類がいない人は、1ユーロも残さず死んだ方がいいのよ。残しても国に回収されるだけだから

と、知人談。死後のために節約するのなら、生きている間をどう楽しく過ごすかを考えた方がよい、と。

ひとまず、ドイツ在住であれば、国籍も宗教も問わず、国が埋葬してくれるというのは、ありがたいことである。もちろん、この国の税金の高さを考えると、そのくらいはしてもらわないと、という気もするが。

希望の葬儀がある場合

ドイツに身内がいない人が死去した場合、一言で言うと、ドイツの役所が面倒を見てくれるわけだが、具体的に何をしてくれるのだろうか。

社会保障局がしてくれるのは、本当に最低限のことだけ

遺体をそのまま放置しておくわけにはいかないので、もう一度よく検死したのちに、火葬場で灰にし、共同墓地に担当者が埋葬する。ただそれだけである。

もし、「こんな風に葬儀をしてほしい」という希望が生前にあったら、どうすればよいのだろう?その場合には、元気なうちに自分で葬儀屋に相談し、料金を支払っておけばOK。割と簡素なものであっても、2000ユーロは掛かるということなので、大きな“買い物”である。高級な骨壺に入れてほしいとか、音楽を奏でてほしい(ドイツでは葬儀で弦楽器やトランペットを演奏するのが一般的)とか、オプションを付けていくと、それだけ値段が上がる。そして、万が一その葬儀屋が倒産してしまうと、何も補償がないので、また別の葬儀屋に支払わなければいけないというリスクもある。

希望を叶えるには、もう一つの方法がある。遺書を書いておくことだ。「こんな風に葬ってほしい」と書いただけでは、社会保障局はしてくれないので、「友人〇〇が葬儀を行うこと」と個人名を書くことが大事。

遺書には決まったフォーマットがない。手紙のように手書きが一番良く、最後に日付とサインを忘れなければ、それで法的に有効な遺書となる。

高額な手数料を払い、公証人のところで書く人もいるが、実はその必要はない。

逆に言えば、遺書の中で指名された人は、葬儀代を出さなければならない。生前に不仲だった親戚の名前を書くことも可能(もちろん、そんな嫌がらせはしない方が気持ちよく他界できると思うが…)。

遺書という形にしなくても、親しい友人と事前によく話をしておいて、死去後にその友人が葬儀を引き受けると申し出れば、社会保障局は喜んで一切を任せてくれる。もしくは、独りだった隣人や友人が亡くなり、自分に経済的な余裕があるならば、葬儀をしたいと自分から名乗り出ることもできる。

葬儀の種類

ドイツでも、埋葬の種類は色々ある。法律上、墓地のスペースは20年レンタルということになっており、生前に予約しておく人も多い。20年が過ぎると、骨壺は廃棄されるか、既に土に還っているわけだが、遺族が申し込めばレンタル期間の延長も可能。

墓石に名前と命日を彫って埋めてもらうこともできるし、壁のようなところに骨壺を入れてもらうこともできるし、樹木葬も人気があるそうだ。一番安く済むのは、Urnengemeinschaftsanlagen(UGA)という、匿名の共同墓地で、ここだと名前を彫られることもなく、お参りに来た人も何かを供えてはいけないことになっている。

埋葬だけではなく、事前に自分で支払っておくか、遺書に書いておけば、空から灰を撒いてもらうことや、海に葬ってもらうこともできる。私の知人のお勧めは、

海ね!ベルリンから2時間くらいのところにも、そういうスポットがあるわよ。船長さんが船に骨壺を乗せて、決められた場所まで移動して、海の下に沈めてくれるの

実は墓地のスペースをレンタルするのも意外にお金が掛かるので、海に葬ってもらって全部終わり、という方が、逆に安上がりな場合もあるらしい。もちろん、何にお金を掛けたいか、というのは個人の価値観によるので、生前が楽しければ死後はどうでもよい、と思う人もいるだろうし、むしろ死後にどう葬られるかの方が大事、と思う人もいるだろう。

白い壁に美しい色合いの花が供えられた墓地
これはドイツではなくスペインの南部だが、たまたま見かけた墓地があまりに綺麗で、思わず写真を撮ってしまった

ところで、ドイツでは法律上、遺体や遺灰を家に置いておいてはいけないことになっている。納棺まで遺体を自宅に安置したり、お墓が決まるまで骨壺を置いておける日本の風習からすると、少し驚くかもしれない。しかし、ここでも日本人にとってのポイントがある。

外国人の場合、「遺灰を母国に持って帰りたい」と言えば、許可されることがあるよ

その方が、社会保障局としても、埋葬する手間と費用が省けるし、都合が良いのだろう。ドイツ人の場合は基本的に禁止されているのだが、「故人はあの国が大好きでよく行っていたから、どうしてもあそこに埋めてあげたい」などとうまく言えば、遺灰を持ち帰る許可を得られることもあるらしい。

余談だが、今年亡くなったドイツ人の友人のお父さんは、どうしても自宅に骨壺を置いてほしい、と生前から家族に伝えていた。そこで家族は、オランダの火葬場で灰にしてもらい、ドイツへ持ち帰ったそうだ。

医療委任状とドナーカード

遺書を書こう、と思い立つのは、きっかけがないと難しいだろうが、それ以外になるべく早く書いておいた方がよいものがある。それは医療委任状(Vorsorgevollmacht)。例えば不慮の事故で植物状態になった場合など、本人がどうしてほしいか意思表示をできなくなったとき、代わりに諸々の決定をできる人を定めるための書面である。

ドイツだと、これがないと、配偶者ですら決定権がなく、病院の言いなりになるしかない場合があるの。絶対に書いておいた方がいいよ!

この委任状の書式も、インターネットで例が見つかるので、自分で2通書いて、委任する人にもサインしてもらい、それぞれ1通ずつ保管しておけばOK。

また別のテーマだが、私が普段から携帯しているものに、ドナーカードがある。近年の日本の運転免許証の裏には、臓器提供の意思を記入する欄があるが、ドイツでは法的健康保険に加入していると、保険会社からカードが送られてくる。

ドイツのドナーカードの表面
写真は表面。裏面は、どの部位を提供したいかなどにチェックしてサインする

この記事の中では、知人から聞いた内容をなるべく忠実に書きましたが、ドイツの法律なども頻繁に変わるので、必要に応じてご自身でご確認ください

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