名前を呼ぶ意味 - 日独比較

スポンサーリンク
スポンサーリンク

頻繁に名前を呼ぶドイツ

ドイツにいると、「やたら名前を呼ばれるなぁ」と思うことがよくある。

職場でも友達との間であっても、ドイツ語の挨拶や感謝の言葉などには、必ずと言っていいほど名前が添えられる。「おはよう、Aki」「ありがとう、Aki」「Aki、ごめんね!」「じゃあ、Aki、また明日ね」など…。

「でも、Aki、君はどう思うの」「それで、Aki、君にもよく聞いてほしいんだけど」など、文の真ん中に差し込まれることも多い。

白いテーブルクロスの上に置かれた、『Aki』という可愛いハート型の名札
友人の結婚式にて、手作りの座席の名札。ドイツ人でも発音できる短い名前でよかった

日本語で話していて、そこまで名前で呼び掛けられるということは、あまりないだろう。単純な文化の違いと言ってしまうこともできるが、本当にそれだけだろうか。

この記事では、言語的な側面からも、この違いについて少し深く考えてみたい。

ドイツ語の特性

どういう時にドイツ人が名前を呼ぶのかというと、無意識にしていることも多いだろうが、基本的には相手の注意をひきたい時である。『(他の人ではなく)あなたに挨拶/話をしているんだよ』ということがはっきりする。

例えば、私の友人家族の息子・Jは7歳の悪戯っ子。悪さをしてお母さんに叱られる時の様子を見ていると、注意をひきつけるため、繰り返し名前が出てくる。「こら、J、何してるの!昨日も言ったでしょ、すぐに手を洗いなさい。まぁ、J、あなた学校でもそんななの?それから、J、宿題は先に…」といった具合である。

教育や仕事の場では、相手が自分の名前を覚えて呼んでくれるというのは、やはり嬉しいもので、親近感が増す。ビジネスで初対面の人と挨拶を交わし自己紹介をした後、会話の最中に相手の名前を何度か口に出して自分の記憶にも留めようとするのも、言語を問わず良いストラテジーだと言えるだろう。

ドイツ語の二人称(英語のyou)には敬称(Sie、あなた)と親称(du、君)の2種類があり、敬称で話す相手とは名字、親称で話す相手とは下の名前で呼び合うのが基本。しかし実際には、大学の授業などで、講師は学生と敬称で話すが、呼び掛ける時は下の名前、というように、ちぐはぐになる場合もある。

名字よりも下の名前の方が短くて覚えやすいことがほとんどなので、先生方にとっては便利

日本語の特性

「日本語だと、毎回、『〇〇さん、おはようございます』とか、『ありがとう、〇〇!』みたいに名前を呼ばないよなぁ」と思った方は、少し考えてみてほしい。それでも日本語で話していると、相手の名前を意外に口にしてはいないだろうか。それはどういう時だろう?

……そう、日本語は、二人称の代わりに相手の名前を用いる傾向がある。

「〇〇さんは今日の講義、来られるんですか」「〇〇はこのチョコレート好きだよね」のように言う方が普通であって、「あなたは今日の講義、来られるんですか」「君はこのチョコレート好きだよね」では少し違和感がある。自然に聞こえるシチュエーションがあるとすれば、教授が学生に予定を聞くような上下関係がある場合か、恋人にチョコレートを渡しているようなごく親密な場合だろう。

日本語では二人称をあまり使わない、というのは、外国人の日本語学習者でも、どの段階かで学ぶ知識である。初級レベルだと、「あなた」「君」を使ってももちろん間違いではないのだが、日本語母語者にとっては、少しドキッとすることもあるかもしれない。

私も男友達に、日本語の「元気?」の返事として、「Ja, und du?」(英語でいうYes, and you?)をどう言えば良いか聞かれたので、とりあえず「うん、君は?」と直訳で教えたものの、私が「元気?」と聞いて、

うん、君は?

と実際に日本語で返されてみると、なんとも言えない違和感…。やはり「うん、Akiは?」の方が自然である。

日本語だと代わりに名前を用いるのは、二人称だけではなく三人称も同じである。ドイツ語であれば「彼」「彼女」という単語を用いるところを、日本語では「〇〇さん」「〇〇」と言うか、誰の話をしているのか明らかであれば主語を省略する。

「〇〇さん、今日は出勤できないそうです。風邪をひいたって言ってました」のようになるが、主語を省略できないドイツ語では、「彼女は風邪をひいたって、彼女は言ってました」というように、三人称を繰り返さないといけない。

比較してみると…

そう考えていくと、なぜドイツでは頻繁に名前を呼ぶのか、という別の側面が見えてくる。

ドイツ語では、目の前にいる相手について話す時に、主語を省略することも、主語の代わりに名前を用いることもできない。主語は常に二人称の「あなた」「君」であり、「Aki、君もコーヒーほしい?」と聞くことはできても、「Akiもコーヒーほしい?」と日本語のようには聞けないのである。そのために、相手の名前を呼び掛けて、誰に対して話しているのかはっきりさせる

逆に日本語だと、目の前に相手がいる場合、「コーヒーほしい?」のように主語を省略することがほとんどだろう。注意をひきたい場合には、「Akiもコーヒーほしい?」と主語として名前を口にできる、というよりも名前を用いる方が二人称よりも自然なので、特別に呼び掛ける必要はない。

外国人の日本語学習者が、二人称の代わりに名前を用いるよう気をつけるように、私たち日本人のドイツ語学習者も、意識的に名前で呼び掛けるようにすると、より自然なドイツ語に近づけるかもしれない。

語学
スポンサーリンク

もしこの記事を楽しんでもらえたら、ドイツ情報ブログランキングに投票(クリック)お願いします!⇩
にほんブログ村 海外生活ブログ ドイツ情報へ

メールアドレスを登録いただくと、新しい記事が投稿された時にお知らせメールが届きます(無料の購読サービス)⇩

記事をシェアする

コメント

タイトルとURLをコピーしました