ポケモン、ドイツの辞書にあらわる

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日本語からの借用語

前回の記事では、日本語として定着したドイツ語由来の言葉を取り上げた。今回はその逆で、ドイツ語に取り入れられた日本語について見てみよう。意外とたくさんあるのだが、日本語由来と知らずに使っている人も多いので、もしドイツ人と話す機会があれば、「これ、もともと日本語だって知ってた?」と聞いてみると盛り上がること間違いなし。

私はドイツの大学院で対照言語学が副専攻だったので、このテーマについて小論文を書いたことがある(先行研究が少ないがその分やりがいがあるので、もしドイツで進学を考えている人がいれば、良い研究テーマになるかもしれない)。専門的なことは抜きにして、ポイントを簡単にまとめると、以下のようになる。

  • 約500語の日本語由来の借用語
  • ほぼ例外なく名詞
  • 伝統文化からポップカルチャーまで幅広いカテゴリー
  • 表記はヘボン式ローマ字に近い
  • 名詞の性や複数形など、ドイツ語ならではの変化

500語もあるの!?」と驚くかもしれないが、これは派生語や、歴史関係の専門用語、ポルトガル語などを経由してあまり原形を留めていない語も含むので、実際に普通のドイツ人が知っているのは、100語もないと思って良いだろう。

日本語における外来語と同じように、ほぼ全てが名詞なのは、特にドイツ語は動詞や形容詞の活用が複雑だということを考えると、納得しやすいと思う。

英語由来の借用語はドイツ語に同化することもあります。download(〈英〉ダウンロード)+ -en(ドイツ語の動詞の語尾)= downloaden(ダウンロードする)、という動詞が良い例です

Hokkaidoを食べる

ドイツ語に本格的に日本語が入ってきたのは、鎖国が解かれた19世紀以降のことで、最初は歴史や伝統に関する単語が多かった。以下に大まかなカテゴリーと、例を挙げてみる。

伝統文化Kimono, Geisha, Futon, Haiku, Bonsai…
歴史Samurai, Harakiri, Kamikaze…
武道Judo, Aikido, Karate…
宗教Shinto, Zen…

これらは元々ドイツに存在しない事物や概念だったので、そのまま取り入れられたわけだが(一部は意味や発音が変化している)、自然にまつわる言葉も定着している。

自然・動植物Tsunami, Koi, Shiitake, Kaki, Hokkaido…

Tsunamiはその前から広く用いられていたが、今では東日本大震災のショッキングな報道を連想させられるドイツ人も多いだろう。

ここで面白いのは、Hokkaido。ドイツ人は秋になるとこれを好んでよく食べる。「北海道を食べるって、どういうこと?」と思われるだろうが、実はHokkaidoというのは、カボチャの一種。Hokkaidokürbis(北海道カボチャ)とも呼ばれる。丸くて明るいオレンジ色をした可愛いカボチャで、ドイツではよくクリームスープにする。なぜHokkaidoと呼ばれるようになったのかは、私が調べた限りだと明らかになっていないようだ。

丸いカボチャ2つ
秋の味覚・Hokkaido

日本の品種名がそのまま用いられている例でいうと、Fuji(ふじリンゴ)がある。ただし日本と比べて小さく、ドイツではリンゴの皮を剥く習慣がないので、そのまま1個をおやつにかじれる食べきりサイズ。

2㎏入りのリンゴ
ドイツのリンゴは安価で、2kg入りでも200〜300円くらいで買える

日本ブームの波に乗って

近年の健康志向と相まって、ドイツでも日本食が流行っている。普通のスーパーでも、サンドウィッチの横に、お寿司やおにぎりが並んでいる時代になった。多くのものは日本と同じ名前で呼ばれている。

食文化Sushi, Tofu, Matcha…

ベジタリアンやヴィーガンが多いドイツでは、Tofuは一般の家庭でもよく見る食材。

最近急に人気が高まってきたのはMatcha。多くのカフェが抹茶ラテを出しているし、抹茶入りのアイスもたまに見かける。私も何度か頼んでみたが、日本人としては「味が薄い」と思うことが多い。独特の苦味に慣れていないドイツ人向けになっているのだと思う。

ここまでは伝統的なものが多いのだが、面白いのはここから。日本のポップカルチャーからも多くの単語が定着している。

ポップカルチャーManga, Anime, Karaoke, Sudoku, Pokemon…

数独はドイツの雑誌にもよく載っているが、Sudokuが日本語だと知らないドイツ人も多いと思う。

ヨーロッパの子どもも大好きなPokemonは、ついにドイツ語辞書・Duden(日本でいう広辞苑)入りを果たした。おそるべしポケモン人気…。

最後に、私がドイツ人に「日本語って知ってた?」と聞いて一番驚かれるのは、Emoji。スマートフォンの普及と共に、ドイツでも誰もが使用するようになった絵文字だが、日本発祥ということを知らない人は意外と多い。

寿司は男性か中性か

さて、多くの日本語由来の単語は、あまり形が変わっていないので、一見してそれと識別できる。ただしヘボン式のローマ字、つまり英語の発音に基づいた表記が多いので、ドイツ語発音だとすぐに理解できないことがある。

ユードーが趣味」って言われて何のことかと思ったら、Judo(柔道)だった

また、日本語や英語にはない問題として、ドイツ語の全ての名詞には文法上の性別がある。しかも男性・女性・中性と3種類。例えばスプーンは男性、フォークは女性、ナイフは中性なのだが、これは単語の一部と思って(残念ながら)地道に覚えるしかない。

新しくドイツ語に入ってきた単語にも、性別をつけなければならないわけだが、これはなかなか奥の深いテーマで、定着するまでに揺れることがある。意味や音の似たドイツ語の単語があれば、それと同じ性別が採用されることが多い。何にも取っ掛かりがないと、中性名詞になる傾向があるようだ。

私がドイツ語を始めた十数年前、Sushiは男性名詞か中性名詞になるかで揺れていた。現在は中性名詞としてDudenにも収録されているが、ドイツ語では魚も米も男性名詞であることを考えると、男性名詞のはずだと信じていた人が多かったことにも頷ける。

大きなお皿に並べられたカラフルなお寿司
ドイツのお寿司はなかなか独創的。これはこれで美味しい

それから、基本的に語末に「s」を付ければよい英語と違って、ドイツ語には複数形の作り方が何種類もある。これも(非常に残念ながら)地道に覚えるしかないのだが、日本語由来の借用語に関しては、僅かな例外を除いて語末に「s」を付ければOKである。

Umamiとは…

最後にちょっとしたエピソードを。

ドイツで料理教室に参加したとき、まずは『おいしさ』とは何かという講義があったのだが、栄養士の女性がこう説明を始めた。

人間の味覚には、5つの基本がありますね。甘味、酸味、塩味、苦味、Umami

「…ん?!」と私は思った。ドイツ語の説明の中で、Umami(うま味)だけ日本語だったのだ。しかし疑問に思ったのは他のドイツ人達も同じだったようで、「Umamiって何ですか」という質問がすぐに出た。

講師の女性が、「Umamiというのはドイツ語にはなかったので、中国か日本から借用してきた言葉です。食べものに感じるおいしさの根底にあるもので…」と答えていたので、思わず私は「もともと日本語です」とその場で発言したものの、後で自分で調べてみて、日本人が発見した味だということを初めて知った。

まだドイツ語として定着しきっていない感じがあるが、既にDudenには形容詞としての用法が載っている。定義が「甘味、酸味、塩味、苦味ではない味の方向性」となっているのはちょっと笑えるのだが、確かにそうとしか説明できないのかもしれない。

こういう風に日本語を見つめ直してみるのも面白いですね

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