空気と日光を求めて

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新鮮な空気

ドイツ企業の日本法人で、総務課に所属していた頃、日本人社員からこんな相談が持ち込まれた。季節は春。

駐在のドイツ人達がしょっちゅう窓を開けて換気するので、花粉症の日本人にはツライのですが

ドイツ人にとって、水と同じように生きるため必要不可欠なものに、“frische Luft”(フリッシェ・ルフト)、つまり『新鮮な空気』がある。家でも職場でもしょっちゅう換気するし、時間を見つけては散歩に行くのも、体を動かす他に新鮮な空気を吸うことが目的。

(ところで冒頭の話だが、部署内で波風を立てたくないので、ドイツ人達に直接やめてくれと言うのではなく、管理部門から注意してもらおうと相談に来るのが、なんとも日本人らしい)

街中をぶらぶら歩くことは散歩とは呼ばないので、ドイツ人が向かうのは公園や緑地、森など、なるべく自然の中である。ドイツでは、ベルリンのような都会であっても、少し歩けば何かしら自然のあるスポットが見つかる。

湖に浮かぶ白鳥の巣と、それを照らす夕陽
私のアパートから徒歩30分の湖を散策中、白鳥の巣を発見

室内で暖房がきいていようと、冷房がきいていようと、花粉症の時期であろうと、定期的に窓を開けて外の空気を取り入れようとするのは、日本では都合が悪いこともあるだろう。しかし、私もドイツで暮らすようになってから、ドイツ人達の気持ちがわかるようになった。

ドイツの建物は、日本と比べて格段に断熱性と気密性がよいので、空気がこもっている感じがよくする。窓を閉め切って出掛けた後、家に帰ってくると、むあっとするので、私も冬であっても窓を開けて空気を入れ替える。

ドイツではベビーカーを押して散歩している人を本当によく見かけるのだが、それも家にこもっているのではなく、「子どもにもなるべく新鮮な空気を吸わせた方がよい」という信念に基づいている。

もこもこしたカバーでくるんだ赤ちゃんを乗せたベビーカー
真冬であろうとも毎日の散歩は欠かさない。友人の赤ちゃんと一緒に

私が東京の大学でドイツ語を専攻していた頃、教科書に、「日本では年末年始、家族でお寺や神社に行きますが、ドイツでは何をするでしょう」という問題があった。答えは「家族で散歩」。

そんな真冬に…とその時は思ったのだが、確かに私の周りのドイツ人は、新鮮な空気を求めて季節を問わず散歩するし、家族が集まるクリスマス期間や年末年始も同じである。

落ち葉を踏みしめながら歩くドイツ人2人
昔馴染みの友人の実家近く、山をお散歩。この日は気持ちの良い秋晴れだった

日光を浴びないのは、損?

現在は大手ワイナリー経営の高級レストランで働く友人Aさんが、ハイデルベルクの住宅街のお店にいた頃、面白い話を聞かせてくれた。

お客さんからの予約の電話で、「テラス席はありますか」と聞かれて、「残念ながらなくて…」と答えると、「あ、じゃあやっぱりいいです」と断れることが多いんです

これはドイツ人の春夏の行動を端的に表している。長く寒い冬をようやく乗り越え、暖かくなると、「なるべく外にいたい」と思う人が大多数。天気が良ければ、カフェやレストランのテラス席が一気に賑わう。

木組みの可愛らしい建物が並ぶ広場で、賑わうレストランのテラス席
週末のランチをのんびりと外で

私はその方が落ち着けると思う時は、夏場でも中の席に座ることがあるが、ほぼ貸し切り状態である。逆に言えば、満席のように見えても、それはテラス席だけで、たいてい中は空いている。

Aさんはやがて独立を目指しているが、外に席を設けられる場所でお店を開くことを決めているという。夏場の売り上げが大きく変わってくるからだ。

新鮮な空気を吸うことと並んで、ドイツ人は、日光を浴びることを大切にする。朝8時くらいまで明るくならず、午後4時くらいには暗くなるという、冬の日の短さを考えると、日が長くなり暖かくなってくると、外に出ずにはいられない気持ちも理解できる。

冬だと、出勤時にはまだ薄暗く、帰宅時にはすっかり暗い…。日の光を見ません

逆に夏になると、夜10時くらいまで明るいので、友人達とテラス席でゆっくりビールを飲んだり、川辺や緑地でアイスクリームを食べたりして過ごす人が溢れる。

重厚な大聖堂の対岸、テラス席で食事を楽しむ人々
シュプレー川沿い、ベルリン大聖堂を眺めながら

ドイツ人の友人達と話していてわかるのは、「日差しがあるのに浴びないのはもったいない!」と彼らが思っていることである。室内にいると、損した気分になるようだ。

アンチ美白?

日光にあたるということは、もちろん健康にも良く、特にドイツ人の多くがビタミンD(日光を浴びた肌で生成される)不足に悩んでいるので、大事である。暖かい休みの日は、日光浴する人で公園が溢れかえる。ランチボックスを食べたり、本を読んだり、ただ水着で横になったり、思い思いに寛いでいる。

青空の下、緑地でくつろぐ人達
最高気温が20度を上回った昨日(4月半ば)、近くの公園にて

しかし、日本人としては日焼けが気になるところ。嬉しそうに何時間も日光浴しているドイツ人を見ると、大丈夫なのかな、と思うのだが、実はみんな健康のためだけではなく、「日焼けしたい」のである。よく街中では日焼けサロンも見かける。

かつてはヨーロッパでも、色白であることが美男美女の条件、というよりもステータスであった。農作業などで日焼けしているのは庶民の証であり、外で働く必要のない特権階級は日焼けすることがない。白い肌は裕福さの象徴だったわけである。

それが時代の変遷により、“休暇で暖かい場所に行って、ゆっくり日焼けできる”くらい生活に余裕があることが、ステータスになった。今では純粋に、健康的に焼けた肌の方が、青白く見える肌よりも格好いい、という風潮である。

衣裳を着た4人
バレエ学校の野外ステージにて。ドイツ人の仲間達が日焼けしすぎて、アジア人の私(正面)が一番白い…

私は日焼けしたくないので、早い時期からなるべく日焼け止めを塗っているのだが、それでも焼けてしまうことに悩んでいた。ドイツでは日傘をさしていると非常に目立つので(日焼けしたい人々からすると理解できない習慣である)、それもあまりしたくない。

これについて、同じように美白文化らしい台湾出身の友人に話すと、「日焼け止め、ドイツの使ってる?」と聞かれた。

私も試してみたけど、ドイツの日焼け止めって、紫外線を浴びすぎずに綺麗に焼くためのもので、完全に日焼けを防いでくれるものじゃないよ

それから、一時帰国した時に買った日本の日焼け止めを使っているのだが、確かに焼けにくくなった気がしている。

バルコニーの価値

『新鮮な空気』『日光浴』がこの国でいかに大事なのかということは、部屋探しをしているときにも実感した。賃貸アパートの紹介文を読んでいると、「バルコニーがある」ことが大きなアピールポイントとして書かれているからだ。

ドイツでは基本的に洗濯物は外に干さないので、バルコニーというのは、家にいながら外の空気を吸い、日光浴するための場所。椅子とテーブルを置いたり、パラソルを置いたり、鉢植えを置いたりして、それぞれ好きなように工夫している。

バルコニー付きのお洒落なアパートと中庭
ベルリンのハッケシャー・マルクトにて

天気が良くなると、バルコニーで朝食を食べたり、お茶したり、本を読んだりしている姿をよく見かける。バルコニー付きのアパートというのは、多くのドイツ人にとって非常に価値があるものなのだ。

ベルリンなどでは難しいが、一軒家に住んでいると、庭で更にゆっくりできるという特権がある。私の昔馴染みの実家は、ドイツ西部の山の麓にあり、外は見渡す限り緑、という(ドイツ人からすると)夢のような立地である。

草原と、庭のテラスに置かれたテーブルの上の食事
辛いことがあった後でも、この家にお邪魔すると癒される。マイナスイオンいっぱいな環境でランチ

私もドイツへ来てから、お散歩が習慣になりました。いつも行く公園でも、季節の移り変わりを観察できて楽しいですよ

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