ポルトガル〜スペイン巡礼①:徒歩の旅

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聖ヤコブの道

ユネスコの世界遺産にも登録されている、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路をご存知だろうか。キリスト教徒や、スペインと繋がりのある人は聞いたことがあるのではと思う。

緑に囲まれた道を、尻尾を立てて堂々と歩いてくる猫
巡礼路の上を歩く猫

ざっくり言うと、イエスの使徒である聖ヤコブの遺骸があるとされ、カトリックの聖地の一つになっているスペイン北西部の町、サンティアゴ・デ・コンポステーラに繋がる道のこと。サンティアゴ(Santiago)とはスペイン語で聖ヤコブのことである。

ヨーロッパ各地を起点とする複数のルートがあり、どこから歩くかは個人の自由。巡礼には1000年以上の歴史があるとされている。それこそドイツからフランスを通過してスペインまで向かうルートもあるが、徒歩では数ヶ月必要となる。

特に知られている巡礼路は、フランスからピレネー山脈を経由して、スペインを西に進んでいく『フランスの道』。それに次いでドイツ人にも人気があるのは、ポルトガルからスペインに入り、北に進んでいく『ポルトガルの道』だ。首都リスボンから歩くと600kmを超えるが、よりスペイン国境に近い町ポルトを起点とすれば約250kmで、2週間あればサンティアゴ・デ・コンポステーラに到着する。また、道の大部分が平坦なので初心者にも優しい。

(以下のページにわかりやすい地図が掲載されているので、興味のある方はぜひ一見を!)

巡礼路の地図 | CAMINO | 日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会

ヨーロッパでは新型コロナウイルスによる混乱もかなり落ち着いたこの春、私は同居人のベルリーナー・Dと一緒に、この『ポルトガルの道』をポルトから歩いた。私は初めてだったが、Dにとっては3回目の巡礼の旅である。

話を聞いて私もいつか歩いてみたかったのです。サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路と、四国のお遍路は協定を結んでいるそうですよ

この巡礼路は、ドイツ語ではJakobsweg(ヤコブの道)と呼ばれる。理由は諸説あるのだが、聖ヤコブのシンボルといえばホタテ貝で、Jakobsmuschel(ヤコブの貝)と呼ばれて巡礼の目印になっている。ホタテ貝はフランス語でも同様に、coquille Saint-Jacques(聖ヤコブの貝)という。

石畳の上に立っている道標の石。黄色のホタテ貝のマークが目印
起点のポルトの大聖堂前にあった、ホタテ貝のマークが目印の道標。サンティアゴ・デ・コンポステーラまで248kmとある

旅行=乗り物での移動、とも言い換えることができそうな時代において、歩いて旅するとはどういうものなのだろうか。ベルリンの日常生活から切り離された貴重な旅の経験を、このブログでも紹介してみたい。

なぜ巡礼?

巡礼、という言葉からは、敬虔なキリスト教徒だけが信仰のために行うものであるように聞こえるかもしれない。元々はそうだったに違いないけれど、いま実際に様々な国から集まっている巡礼者の目的は様々で、私達と同じように“旅として”、“経験として”歩いている人が大半だった。

会社で高い地位まで上り詰めたが鬱っぽくなり、家族から勧められて、日常から離れるためにやって来たという中年の男性。ポルトガルに留学中で、学期休みに旅行感覚で歩いているという学生。定年退職して急に時間ができたので、前々からやってみたかった巡礼に挑戦しているという年金生活者。お金がないので、安く旅する方法はと考えて徒歩での巡礼を思いついたという職探し中の若者。離婚や転職など様々な意味で人生の転機にあり、歩きながら自分と向き合うことにした女性など。

特筆すべきなのは、ほとんどの巡礼者が単独だったこと。私とDのように連れ立って来ているのは少数派だった。家族やパートナーを置いて一人で歩いている人に話を聞くと、「自分のための巡礼だから一人がいい」「パートナーとは歩くペースや感覚が違うので、途中で喧嘩になるのが目に見えている」などということだった。

そして、特にポルトガルを歩いている間は、ドイツ人の割合の高さに驚いた。宿泊所で同室になった十数人のうち、私とオーストリア人(ドイツ語話者)を除いて全員がドイツ人で、部屋のコミュニケーションが完全にドイツ語になるということもあった。

スペインの巡礼路を歩く背の高い男性の後ろ姿
一人でオーストリアから来ていた男性。カトリック教徒ながら独自の解釈を持っていて、道すがら興味深い話を聞かせてくれた

国境を越えてスペインに入ってからは、ちょうどイースターの休暇期間にあたったこともあり、現地の巡礼者が一気に増えた。スペイン人は私達外国人とは逆に、カップル、友達や家族と来ている人がほとんどで、小さな子どもも含めた大勢の家族連れを見掛けることもあった。

巡礼の仕組み

巡礼の仕組みは、いわばスタンプラリーのようなものである。巡礼者パスを入手し(私達は起点ポルトの大聖堂で購入)、行く先々でスタンプを集める。

折り畳み式の小さな冊子
最初のページには移動方法を記入する箇所がある。なんと現在でも馬での巡礼も認められている

ポルトガルとスペインの中で巡礼路が通っているのは、おそらく巡礼以外の観光ではあまり訪れないであろう、森林や一面の葡萄畑が広がる自然豊かな“地方”である。それでも毎日小さな町を幾つか経由するので、教会や宿泊所、飲食店などでスタンプを押してもらい、日付も記入してもらう。

最終的にサンティアゴ・デ・コンポステーラで巡礼終了の証明書を発行してもらうためには、最後の100kmで一日2つ以上のスタンプがあればOK。特に子ども連れの人などは、この最短区間だけ歩くことも多いようだ。ちなみに自転車での巡礼も認められており、その場合には最低200kmを走らなければならない。

基本的にはどのルートもほとんど枝分かれしておらず、頻繁に現れる黄色の矢印道標の石がサンティアゴ・デ・コンポステーラへの方向を示しているので、巡礼者が道に迷うことはない。今でこそスマホで現在位置を手軽に確認できるけれど、そうでなかった時代には、この矢印がほぼ唯一の手掛かりだったはずだ。

葡萄畑の中に立っている柱に、黄色の矢印で方向が示されている
黄色の矢印に従って葡萄畑の中を歩いて行く

歩くペースは人それぞれで良いのだが、私達は平均的な行程に沿って、2週間弱で毎日25kmくらいを歩いていった。一般的に徒歩の時速は約4 kmとされているが、荷物を背負っているのでスピードが落ちるし、途中で何度か休憩もするので、7〜8時間かけて次の目的地を目指す感じである。

次の目的地、というのはつまり、その日に泊まれる場所のこと。巡礼路には伝統的に無償で巡礼者を受け入れている公営の宿泊所があって、現在では寄付ベースか、1人8ユーロ(約1000円)ほどでベッドを使うことができる。

石造のこじんまりした二階建ての建物
スペイン・ガリシア州のパドロンにある宿泊所

ただし、この公営の宿泊所には注意点がある。事前予約ができず、受付が先着順なのだ。確実にベッドを確保したいと思ったら、チェックインが始まる時間を目指して到着するのがベスト。ポルトガルでは14時か15時、スペインでは13時に開くので、早朝に出発しないと間に合わない。

私達も5時半に起きて6時半に出発するようにしていました

まだ薄暗いうちに歩き始め、おなかが空いてきたらカフェやパン屋で朝食をとり、再び何時間か歩いて、軽いランチを兼ねてもう一度休憩をする。それからは目的の町までもう一踏ん張り。

ポルトガルもスペインも物価が安く、コーヒー1杯が2ユーロ以下のことも多いので、トイレ休憩を兼ねて気軽にカフェに立ち寄れる(というよりも、巡礼者用の無料トイレなどはないので、お店で利用するしかない)。そして特にスペインでは、飲み物だけ頼んでもちょっとしたお菓子などをつけてくれるのでお得感がある。

フォームミルクがのったコーヒー2杯と、ミニサイズのケーキなど
ポンテベドラという町のカフェでコーヒー(1.40ユーロ)を頼んだところ、一口サイズの美味しい焼き菓子と、スペイン風オムレツ&パンがおまけで付いてきた。すごいサービス精神!

宿は数十人と同室!

さて、巡礼者用の宿に泊まる、ということ自体が、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路におけるユニークな経験である。公営の宿泊所は簡易ホステルのような感じで、たくさんの二段ベッドが並ぶ大部屋で、大勢の人が老若男女の区別なく一緒に寝泊りする。

ベッドはビニールのマットレスと枕があるだけなので、そこに持参した寝袋を敷いて寝ることになる。スペインでは使い捨ての薄いシーツと枕カバーももらえた。

青いマットレスの二段ベッドが並ぶ大部屋
トゥイというスペインの町にて。左が私達に充てがわれた二段ベッド

私はこういった体験が初めてだったので初日は緊張してよく眠れなかったのだが、疲れと慣れとで、2日目からは熟睡できた。ドイツから持って行ってよかったと実感したのは、耳栓!周りのいびきや話し声がうるさくても、これがあればだいぶ楽に眠りにつくことができる。

二段ベッドの上から見た眺め。ベッドが所狭しと並べられている
パドロンの宿では二段ベッド4つがくっついていたので、知らない巡礼者3人と頭を突き合わせて眠った

その他、宿泊所には大抵キッチンがあり、洗濯室があるところもあった。トイレシャワーは男女には分かれているが、シャワーは個別に仕切られていないところもあり、イメージ的には複数の人が並んで体を洗うプールのシャワー室のような感じだろうか。

巡礼者が体を休めるための最低限の設備しかないので、寝袋の他にタオルやシャンプー類も持参する必要があるし、もちろん朝食も付いていない。場所によって建物の新旧にはだいぶ差があるものの、私達が泊まった場所はどこも清潔にしてあって、嫌な思いをすることはなかった。

それから、なんと公営の宿泊所には門限があり、22時に門が閉まってしまう。巡礼者の多くは朝早くに出発するので、そもそも夜遊びするようなエネルギーはなく、夜ごはんの後に宿へ戻ったら自分の寝袋に入って休む。朝は起きた人からなるべく静かに身支度をして出発する。早い人は5時前後に起き出していた。

壁がタイル張りになった通路にソファなどが置かれている
ポルトガルのラテスという町の宿泊所にて。私は朝6時くらいに廊下で荷物をまとめた

一方で、当然ながら巡礼者用の宿泊所以外に一般のホステルもあるし、予算に余裕があれば普通のホテルに泊まってもいい。私達が行ったのは割と混雑するイースターの時期で、公営の宿泊所はすぐいっぱいになってしまうので、前日に一般の予約サイトで何かしら予約しておく巡礼者も多かった。

私達も何度か一般のペンションやホステルを事前予約したが、そうすれば「公営の宿泊所の受付が開く頃に着かないと」という時間的なプレッシャーがなくなり、ゆっくり歩けるので、少し割高になっても心身ともにかなり楽である。

ひょろりと背の高い木の間に並んでいるプレハブの小屋
ポルトガルでは一部の私営キャンプ場も巡礼者用にプレハブの小屋を貸し出しており、私達も一泊した

次の記事では、実際の経験をもとに巡礼中の困難などについて記してみたい。

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