最強の味方・へバメ
このドイツ妊娠生活記も最終回。メンタリティの違いや出生前診断についてなど色々と書いてきたが、ドイツでの妊娠・出産においては、制度上でも日本と大きく違う部分がある。分業が徹底しているのだ。
妊婦にとって欠かせない存在は3つあり、自動的に割り当てられるわけではないので、それぞれ自力で探さなければならない。
まず、妊娠がわかり次第健診を受ける掛かりつけの産婦人科医。それとは別に、出産する病院は好きなところを探して、妊娠後期に入ったら登録に行く必要がある。更に、個別のケアをしてくれる助産師がいる。基本的にはどれも公的健康保険でカバーされ、自己負担はなし。
個人的には、この助産師、ドイツ語ではHebamme=ヘバメという存在が本当に素晴らしいと思う。助産師と呼ばれてはいるが、自宅出産を選ぶ人が少なくなっている今、主なサービスは産前・産後の訪問ケアである。
ドイツでは病院で出産を終え、特に問題がないとすぐに自宅に帰されてしまう(私は出産の翌々日の朝に退院)。まだ片手でも持ててしまう小さな新生児を連れて帰ったものの、右も左もわからない心細い状態のときに、10日間毎日家まで来てくれる最強の味方がヘバメである。その後も必要に応じて、12週目までに計16回来てもらうことができる。
私は妊娠検査薬で妊娠がわかって、掛かりつけの産婦人科医に診てもらった妊娠6週目の時点で、まずこう言われたのだった。

今すぐにすべきことは、ヘバメ探しですね。ベルリンは人手不足だから、なるべく早く探すに越したことはないですよ
現在はへバメ探しもオンラインが中心。毎日家まで来てもらうということは、へバメも近くに住んでいることが前提となるので、基本的に同じ地区で探すことになる。
私もオンラインで検索したところ、徒歩15分のところにフリーランスのへバメ数人が所属しているセンターがあったので、メールで問い合わせを送ってみた。次の日にはJというへバメから携帯電話にSMSで返信があり、「あなたの出産予定時期はまだキャパシティがあるので、よければ担当します」と言ってもらった。
顔合わせのアポイントメントの日時を決めて、自宅に来てもらうと、私よりも5歳年上の、おっとりしたドイツ人女性だった。助産師歴は18年というベテラン。自身も小さな娘さんがいて、なんと自宅出産だったのだという。
産後の心身ともに疲れ切っているところに毎日来てもらうことを考えると、へバメと人間的な相性が合うかもとても大事。私たちはすぐに打ち解けて話せる雰囲気になったので、Jに担当してもらうよう正式にお願いし、契約書にサインした。

保険の適用内で、出産前にも細々した相談に乗ってもらうことができる。疑問が浮かんだ時にいつでもコンタクトできる妊娠・出産のプロがいてくれるというのは、初めてのことばかりで戸惑う時期に、本当にありがたかった。
日本で出産経験のある友人の見方でも、「日本は入院期間が長くて至れり尽くせりだし、おむつ替えや沐浴のやり方も教えてくれるのはいいけれど、病院と自宅では色々と勝手が違うから、家にへバメさんが来て教えてくれるのは素晴らしい」とのこと。
へバメは、子どもの健康状態を確認したり、お世話の仕方を指南するだけではなく、子宮の戻り具合など、母親の産後ケアもしてくれる。私は骨盤の歪みが原因と思われる背中の痛みに悩まされていたが、Jはいつも丁寧なマッサージまでしてくれた。
へバメのありがたい助言
出産前にもJに2回自宅まで来てもらい、用意したベビー用品やおむつ交換台が適切かチェックしてもらった。あった方がいいとアドバイスされ、私たちが追加で買ったのは、おむつ交換台の横に置く、専用のランプ式ヒーター。
出産予定日が4月初めだったので、冬じゃないしひとまず不要かと思っていたのだが、

新生児は冷たい空気に敏感で、すぐに落ち着きをなくすから、ヒーターがあった方がおむつ替えがずっと楽だよ
と勧められた。そして中古品を購入したところ、これが大正解。
春とはいえ、ここは緯度の高いドイツ。急に冬のように冷え込む日もあったが、ヒーターの下はポカポカ暖かいので、私が慣れないおむつ替えに手間取っていても、子どもはリラックスしてくれていた。

もう一つ、出産前にもらったアドバイスの中でも、後になって「いやはや、それを聞いておいて本当に良かった…」と思ったことの一つは、

ベビー用品を揃えるのは出産が近くなってからでOK!それまでに周りから色々もらったりするものだから
ということ。実際に私たちも、妊娠していることを徐々に周りに伝えるにつれ、お古のベビー用品だったり、新品のプレゼントだったりを次々ともらい、自分達で買ったものはほとんどないくらいだった。すぐにサイズアウトしてしまうベビー服も、ベビーベッドも、ベビーカーも、ベビーシートも、友人や同僚からもらって事足りてしまった。
もしお古のベビー用品をくれそうな人があまり周りにいなくても、ドイツであれば、道を歩いていると「ご自由にどうぞ」という箱に色々なものが入って置かれていることも多い。以前「ドイツ式・中古品の譲り方」という記事にもしたが、この国では、知らない人同士で中古品を譲り合うことに、日本ほど抵抗がないと思う。
マタニティー用の服も、私は先輩ママの友人や義母からもらったもので十分で、自分で新しく買ったのはタイツ数枚とレギンスだけ。話に聞いていたほど胸やおしりが大きくなることもなかったので、下着類も妊娠前のものを最後まで使えていた。
というわけで、もし妊娠中の、特にドイツ在住の方がこの記事を読んでくれていたら、お伝えしたい。本当に必要なものはその時にならないとわからないこともあるし、周りからもらって事足りることも多いので、その都度買えばいいですよ、と。今はオンラインで注文しても数日中に家に届く時代である。
出産準備コース
さて、へバメ・Jの助産師センターには、出産前には出産準備コース(Geburtsvorbereitungskurs)、出産後には産後体操コース(Rückbildungskurs)でもお世話になった。どちらも公的健康保険が本人の分は費用負担してくれる。
出産準備コースは一人で受講することも、費用負担ありでパートナーを連れていくこともできるが、私は夫のベルリーナー・Dとパートナーありコースに申し込んだ。
出産予定日の約2ヶ月前の土日2日間、10〜17時までの集中コース。講師は私たちの担当へバメでもあるJだった。参加者は、妊娠後期の女性とそのパートナー、8組16人。

参加者を見渡して面白かったのは、とてもベルリンらしいと言うべきか、ドイツ人が半分もいなかったこと。共通言語はドイツ語だったが、イタリア、レバノン、スウェーデン、ロシア、オーストリア、インドネシア、日本(私)の出身者が集まり、非常に国際的。
また、女性は全員30代か40代で、30代後半の私が平均年齢くらいだった。最初のブログ記事でも触れたが、いわゆる高齢出産が普通になっていることの表れだろう。
コースの内容は、出産が迫ってきた時の兆候や、胎児が回転しながら産道を通るメカニズムといった座学から、分娩時の体勢の練習といった実践、また同性の参加者たちと輪になって不安を打ち明け合う対話まで、盛りだくさん。
Jが考えてくれたスケジュールはあったが、誰でも好きな時に好きなだけ質問してよく、ワークショップのように他の参加者たちと行うアクティビティも多かったので、非常にインタラクティブ。みんなで踊ったり、絵を描いたり、自分のパートナーに手紙を書いたりもした(この手紙は、出産後にJが各カップルに郵送してくれた)。
妊娠後期ということで、女性たちは大きなおなかを抱えて参加しており、ただでさえ疲れやすい時期である。Jは一日目に、

長丁場で疲れると思うから、好きな格好で聞いてね。眠ってくれてもいいよ
と言っていたが、みんな本当に寝転んだり、半ばウトウトしながら聞いたりしていて、これもドイツらしいというか、何とも自由だなぁと思ったのだった。
ドイツ妊娠生活まとめ
自分の心身がどう変化するのか未知だった、約9ヶ月間の妊娠生活を振り返ってみると…。仕事や趣味のバレエを続けつつ割と淡々と過ごしていて、すごくハッピーだと感じることもブルーになることもなかった。
産婦人科健診に通ったり、食べ物に気をつけたり、必要なことには対応していたつもりだ。そして、初期のつわりや後期のマイナートラブルなど、「もう勘弁してくれ」と思うことももちろんあった。

妊娠後期は冗談ではなく30分おきにトイレに行きたくなるので、日本のようにどこでも無料のトイレがあるわけではないドイツでは、出掛けるとき気が気ではなかったです… どこでトイレに行けるかを常に考えながら行動していました
私は妊娠7ヶ月くらいまであまりおなかが目立たず、ぐんぐん大きくなって妊婦だと気付かれるようになったのは、ようやく8ヶ月目に入ってから。
おなかが張って、背中側も痛み、椅子に座っているのもツライという日もあれば、まったく負担に感じない日もあった。すごくおなかが張ったなと思う次の日の朝に、鏡で横から自分の姿を見てみると、目に見えて前日よりもおなかが大きくなっていてびっくりしたことがある。
妊娠中だと気付かれるようになってから面白かったのは、職場やバレエスタジオなどで、それまであまり関わりのなかった人から声を掛けられるようになったこと。「いま何ヶ月目?」「男の子?女の子?」「私も小さい子どもがいてね…」と、妊娠や子どもに関心のある人とだと話題は尽きない。
お互いになんとなく顔に見覚えはあったが、話したこともなく、名前も知らなかったバレエ仲間から、「何か必要なベビー用品ある?私は息子が大きくなって不要になったものもまだ取ってあるから、よければ持ってくるよ」と急に声を掛けてもらったこともあった。
最後に。
産前だけではなく産後にも言えることだが、情報に振り回されないことの大切さを実感した。初めての妊娠で小さなことでも不安になり、色々と調べてしまうのは自然な挙動。しかし、インターネットでいくらでも情報収集できる時代だからこそ、何を(誰を)信用するか、軸があった方が良いと思う。
例えば、私の子どもは妊娠後期の34週目まで、ずっと逆子(骨盤位)だった。オンラインで検索すると、「逆子体操をするといい」という意見も、「医学的な有効性が実証されておらず、おなかが張ることもあるので、積極的にしない方がいい」という見解もあった。
迷った私は、助産師として18年の経験を持つへバメ・Jの言うことなら間違いないと思い、意見を仰ぐことに。

ほとんどの子どもは出産までに自然に回転するから、焦って何かしなくても大丈夫。不思議だけど、母親がリラックスしているものいいみたい。ずっと逆子だったのに、仕事のストレスがなくなったら回転するケースも見てきたよ
とのことだったので、あまり心配しないことにした。そして、出産予定日の6週間前に産休に入り、仕事から解放された翌週に産婦人科健診に行くと、なんと本当に子どもが回転して頭が下になっていることを確認!
それからも、不安や疑問に思うことがあると、色々と調べすぎて逆にわからなくなるより、全面的に信頼するへバメ・Jに聞くことにした。日本とドイツで推奨が違う点もあるが、そこもJが良しと言えばドイツ式に従った。

ここまで、妊娠にまつわるトピックやエピソードを中心にご紹介しました。ドイツでは無痛分娩が普通など、出産に関しても日独で色々と違いがあるので、もしリクエストがあれば改めて記事にしますね


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