新たなドイツ文化・マスク

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新たな日用品

数ヶ月前までドイツの街中で見たこともなかったものが、今では急に日用品の一つとなった。マスクである。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、州や街ごとに導入時期は前後したが、ドイツでもマスク着用が義務化された。この記事の執筆時点(2020年5月)で、私が暮らしているベルリンでは、店舗に入る時と公共交通機関を利用する時はマスクをしなければならない。

行き先表示の画面の端で、ハートのロゴマークが白いマスクをしている
バスの中にて。BVG(ベルリン市交通局)のマークもマスク着用

全国的なマスク着用の義務化が割と遅かったのは、そもそもドイツの日常にはマスクというものが存在していなかったから。元々どの世帯にもあるようなものではなかった。コロナウイルスの波がヨーロッパに到達してからも、まず医療用マスクの不足が心配されており、一般の人にも着用を求めるのはその後となった。

Duden(日本でいう広辞苑)で「マスク(Mundschutz)」の定義を見てみても、「特に手術時に医師や看護師が着用する保護具」とされており、医療分野での使用しか想定されていなかったことがわかる。

一方、日本でマスクといえば、小学生の頃から生活の一部となっている。給食当番の時や、風邪気味の時など、マスクを付けることはごく当たり前である。

私は重度の花粉症なので、春に一時帰国するとマスクなしでは外を歩けません

この数ヶ月で大きく状況が変わり、ドイツで根付き始めたマスクという新しい文化について、日本と比較しながら改めて考察してみたい。

マスク=不審者?

コロナウイルスが出現する前の話。知り合いの日本人の子どもをベルリンの空港まで迎えに行ったとき、彼女はマスク姿で到着ゲートから出てきた。私は何も考えないまま、空港のタクシー乗り場でタクシーに乗ろうとしたのだが、私が連れている女の子を見た運転手は怪訝そうに顔をしかめた。

何かあったの?

私が慌てて、「飛行機の中は空気が乾燥しているので、喉を痛めないように日本人はマスクをするんです」と説明すると、しぶしぶ乗せてくれたが、次からは飛行機を降りたらすぐに外してもらおうと思ったのだった。

目元から下が隠れてしまうマスクは、ドイツでは不審に見られる対象だった。何か異常な病気を患っているか、そうでなければ顔を隠す(マスク=仮面をつける)というのは何かやましいところがある、と思われる。考えてみると、日本では女性は笑うときに口元を隠すのが上品とされているところがあるが、ドイツではその習慣もない。

数年前にドイツの大学院で異文化コミュニケーションの勉強をしていた頃、私はたまたま『マスク』をポートフォリオのテーマとして選んだ。日独文化比較の切り口として面白いと思ったからだ。ゼミの仲間のドイツ人に、マスク姿の人をどう思うか聞いてみたところ、

日本人だと思うけど、マスクをしている団体旅行客を見て、「この人たち、ドイツの空気がそんなに悪いと思っているのかな」ってちょっと嫌な気分になったわ

とのことだった。もしかしたら風邪気味だったり、女性の場合はお化粧する時間がなかったのを隠すためだったり、エチケットの観点からマスクをしていただけかもしれないが、その発想はドイツではないわけである。

街中でマスクをしているアジア人を見て「何だか怪しいな」と思うドイツの感覚は、日本でそう日差しが強いわけでもないのにサングラスをしているヨーロッパ人を見て、「目元が見えないと胡散くさいな」と思う感覚と似ているかもしれない。

余談だが、瞳の色素が薄いと少しの光でも眩しく感じるので、青、緑、グレーなどの瞳の人にとってサングラスは必需品である
青空の下で賑わうマーケット
天気が良かった4月の週末、ベルリン・プレンツラウアーベルク地区のマーケットにて。多くの人がサングラスをしており、マスク(野外では義務ではない)をした人もちらほら

ドイツのマスクの特徴

さて、今まで異質だと思われていたマスクだが、急にドイツでも義務化され、誰もが使うことになった。街中で観察していると、日本のマスクとの違いが目に付く。

まず、素材は布製がほとんど。(品薄の現在は違うかもれないが)使い捨てマスクが主流だった日本と比べて、ドイツはエコ意識が高く、何でも繰り返し使えるものを好む傾向も影響していると思う。今は薬局などに行けば使い捨てマスクもあるが、布製マスクをどこかで買うか手作りして使っている人が多い。

カラフルなマスクの写真が載っているポスター
手作りマスクの寄付を募る社会福祉団体のポスター

今はドイツもゴム紐が品薄になっていて手に入りにくい。同僚の義理のお母さんで、裁縫好きなドイツ人女性の話だが、アポートの入り口に箱を置いて「ここにゴム紐を入れてくれたら、無償でマスクを縫ってお返しします」という張り紙をしたところ、それでもけっこうな数のゴム紐が集まったという。不要な服などから取ってきたのかもしれない。

次に、色がカラフル。日本では衛生的なイメージの白や水色が大半だと思うが、ドイツでは黒や原色の濃い色のマスクを多く見かける。服装の一部という意識なのだろう、柄も様々で、星柄、花柄、何でもあり。「マスクは淡い色」という先入観がないので、単純に自分の好きな色と柄を選んでいるのだと思う。

紺地にカラフルな桜柄で、ピンクの紐がついたマスク
裁縫が専門の友人が和柄で作ってくれた私のマスク。カラフルだが、ドイツだと派手に思われない

それから、形が自由。公共交通機関などで着用が義務とされているのは、正確には「口と鼻を覆うもの」(Mund-Nasen-Bedeckung)と政令に書かれている。つまり、必ずしも典型的なマスクである必要はない。

スカーフをぐるぐると巻いている人もいるし、大きなバンダナを逆三角形に折り、頭の後ろで両端を結んでいる人もいる。私が電車で見かけた中で一番斬新だったのは、Tシャツをジョキジョキとマスクらしい形に切り抜いたものをつけていた中年の男性。周りの目を気にしないドイツらしく、何でもありである。

練習が必要なドイツ人

今まで馴染みのなかったものを初めて使うということは、練習が必要ということでもある。

ドイツ人の友人に使い捨てマスクをあげたところ、裏表があることから教える必要があった。そしてそのまま着けると息が漏れてメガネが曇っていたので、「鼻の部分のワイヤーを曲げて、上の隙間をなくすんだよ」と伝授。

ドイツの複数の新聞で(愛情を持って)からかわれていたのは、ノルトライン=ヴェストファーレン州のアルミン・ラシェット首相である。

ドイツ語でマスクは“Mundschutz”(Mund=口、Schutz=守るもの)や“Maske”(英語のmaskと同じで「仮面」の意味もあり)と呼ばれるが、Mundschutzを文字通り取りすぎたラシェット首相…

„Wenn Mann ’Mundschutz’ wörtlich nimmt“
Obwohl es Mundschutz heißt, muss auch die Nase rein: Für diese Bilder kassierte CDU-Politiker Armin Laschet jede Menge S...

口は守っているが、鼻が出てしまっている。

もはやちょっと可愛い。笑

マスクの初心者・ドイツ」が、「マスクのプロ・日本」と比較して、どんな風にこの新しい文化を発展させていくのか、今後も注目したい。日本では、自分の予防だけではなく周りを守るためマスクを着けるという、集団主義的な感覚が昔から根付いているが、個人主義のこの国でも、今は連帯してウイルスに立ち向かうべき時である。

コメント

  1. スパ大 より:

    更新お疲れ様です。時々閲覧に訪れています。

    日本観光に来る外国人旅行者も、日本人のマスク姿を奇妙に感じているみたいです。今回の感染症対策で医療・衛生のためのマスクへの偏見(?)がなくなると良いのですが。
    外国人のサングラスはお洒落でかけていると思っていました。目の保護ためとは知りませんでした。そのせいか欧米人はお洒落な人が多いのかと勘違い(?)していました。

    一番最初の写真、BVGが小さく写っているのが印象に残りました。フレームの隙間から垣間見る感じで苦心して撮られた様な気がしました。

    聞かれているかも知れませんが、日本では緊急事態が解除され、学校も徐々に再開されています。百貨店や飲食店も徐々に動き出している様子です。娯楽業はまだこれからみたいです。
    ドイツでも街中に人々が出ている様子ですね。では。

    • Aki Aki より:

      閲覧、またコメントいただけて嬉しいです!

      眼の色素が薄いと本当に眩しく感じるようで、ドイツは日本と比べて照明も薄暗いです。
      私は職場でドイツ人2人と同室なのですが、2人のデスクの上は私より蛍光灯を減らしてあります。
      もちろんサングラスはお洒落の一部でもありますが、基本的にはメガネのように必要だから掛けているようです。

      今まで馴染みがなかったマスクを急に着用するようになったドイツ人の戸惑いは、日本人が「太陽光で健康を害する可能性があるので、明日からサングラス着用が義務」と言われた場合を考えてみると似ているではと思います。

      BVGの写真は、実は私ではなく友人が撮って送ってくれたものなのですが、行き先がテーゲル空港のバスでベルリンらしかったのと、座席から見ている感じが伝わっていいかなと思い、使わせてもらいました。

      日本もドイツも徐々に日常が戻ってきている感じですね。ベルリンも10日前からカフェとレストランの営業が再開しました。
      緊急事態宣言が解除されたとはいえ、今後も気をつけてお過ごしください。

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