大人のバレエに必要なもの

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バレエは子どもから始めるもの?

嬉しいことに、私のブログを読んでバレエを始めることにしたという30代の女性から、記事のリクエストをいただいたので、バレエとの付き合いについて、日本とドイツの様子も絡めながら書いていきたい。

まず、「趣味はバレエです」という話になると、ほぼ必ずと言っていいほど、日本でもドイツでもこう聞かれる。

子どもの時からやっているんですか?

実際には、私がバレエを始めたのは19歳、大学1年生の半ばだった。そう答えると、「えっ、バレエって大人になってからでもできるんですね!」と驚かれることが多い。

これは決して不思議なことではなくて、私自身、昔はそう思い込んでいた。バレエというのは、他のジャンルの踊りと違い、「小さい頃に始めて、体が柔らかくないとできない」というイメージを持たれがちである。これはプロを目指す場合にはある程度真実だろうが、趣味としてバレエを楽しむのなら、始める時の年齢や柔軟さは問題にならない。

曲がりなりにも十数年バレエを続けてきて、私が「バレエをするのに必要だ」と思うのはただ一つ。コツコツ努力を続けられること、だけである。

体が柔らかくないとできない?

高校まで文化部まっしぐらだった私が急にバレエを始めたのは、大学に『クラシックバレエ部』という部活があり、初心者でも歓迎と聞いたからだった。もともと舞台芸術を観るのは好きで、特にバレエには憧れがあったものの、始めるきっかけがないまま成人間近になってしまった私は、「今勇気を出さないともうチャンスはないかも」と体験レッスンに行った。そして体育会系なのに文化系のようなおっとりした雰囲気と、同じく初心者から始めた仲間たちの姿に背中を押されて、入部を決めたのだった。

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しかしダンスなどしたことのなかった私は、ものすごく体が硬かった。座って横に開脚しても、90度くらいしか開かないし、立って前屈しても、指先が床に付かない。そんな私でも、2年後くらいには、150度くらい脚が開き、手の平がペタッと床に付き、やがてY字バランスもできるようになった。特に秘訣はない。あるとすれば、毎日地道にストレッチを続けようという固い意志だけ。

いつもお風呂上がりに20分くらいストレッチをするようにしていたが、進歩を目に見えるようにするため、横に開脚するときは片脚をカーペットの1辺に合わせていた。最初は90度、つまり両脚とカーペットの角が被っていたのが、だんだんとカーペットと脚の間に隙間ができて、床が見えるようになるのが嬉しかった。

縦に開脚する練習は、まず前の脚は膝を曲げた状態から始めて、徐々に膝を伸ばしていった。固い床だと痛いので、最初はスプリングのきくベッドの上で練習するのがおすすめ。

立った状態での前屈は、バーレッスンでも繰り返し出てくる動きなので、定期的にレッスンに通っていれば、それだけで改善されていくはず。ただしクラシックバレエでの前屈は、背中を丸めてはいけない。イメージとしては、背中をまっすぐに保ったまま、腰から上を前に折りたたむ感じ。家で練習するときにも、一度全身を引っ張り上げるように伸ばしてから、腰の位置を変えないように上半身を前に倒していくと良いと思う。

体を作り変えていくのには時間が掛かるが、焦りは禁物。地道に続けていけば必ず少しずつ変わっていくので安心してほしい。私はギリギリ10代から始めたが、30代、40代、50代からバレエを始めた大人クラスの仲間達も、どんどん体がバレリーナらしく変わっていくのを間近で見てきた。

レッスン=地道なトレーニング

バレエはもちろん踊りなのだが、普段のレッスンは、ダンスというよりトレーニングである。1レッスンは日本でもドイツでも基本的に90分。その後にトゥシューズの練習が続く場合もある。

90分のうち前半がバーレッスン(鏡の前のバーに手を置いた練習)、後半がセンターレッスン(スタジオの中央でバーなしの練習)で、練習の順番もだいたい決まっている。バーレッスンは膝を曲げる練習から始まり、足先を伸ばす練習、足を上げる練習など、徐々に大きく全身を使う動きへと繋がっていく。1つ1つの練習は1分前後で、バーを持ち替えて、左右それぞれ行う。これはプロであっても毎日行う欠かせない練習で、バレエの全ての動きの基礎になっている。

センターレッスンの中盤以降のアンシェヌマン(2つ以上のステップの繋がり)になると、踊りらしくなってくるのだが、発表会に向けた練習を除けば、数分にわたる振り付けを覚えて1曲を通して踊るわけではない。普段のレッスンは、1つ1つの動きとステップを正確にできるようになるための、地道な練習の繰り返しである。

レッスンはともすれば単調になりそうだが、毎回少しずつ練習の内容を変えたり、色々な音楽を使ってみたり、先生方も工夫を凝らしている。私がドイツで受けているレッスンでは、クラシック音楽だけではなく、流行りのポップスのピアノアレンジや、クリスマスソングなどの季節物も使われていて楽しい。

日本でもドイツでも、大人向けのバレエは人気で、多くのバレエ教室で入門コースが開講されている。年齢も20代から70代くらいまでバラバラだが、バレエを続けている人に共通して言えるのは、実年齢よりもかなり若く見えること。継続は力なり、と言うが、日々の地道なトレーニングが体と心を若々しく保ってくれる。

トゥシューズを履けるまで

バレエの大変なところは、他のジャンルの踊りと比べて、形になるまで長い時間がかかること。人前で踊ってそれなりに様になるまでに、3〜5年は掛かると思って良いだろう。まずは地道に体を作り変えて、脚の付け根から外側に開けるようにしたり、足の裏側まで伸ばせるようにしたりしないといけないし、バレエ独特の動き方を全身に馴染ませるのは一朝一夕にはできない。残酷ともいえるが、その人の立ち姿を見ただけで、または足を前に出すのを見ただけで、プロかアマチュアかがわかってしまうのがバレエである。

バレエと外国語学習はよく似ていると思う。急に上達することはないし、怠けるとすぐに力が落ちる。まずは単語を覚えて、文法を理解して、徐々に長い文章として組み合わせていって…。一方で、長い道のりだからこそ、何かをうまく表現できた時の喜びはひとしお。

上達している気がしなくても、諦めずにコツコツ続けていると、ある時、「あっ、これができるようになってる!」と気づくことがある

また、前述したように普段のレッスンがごく地味で、自分自身との闘いのような側面が強いので、踊りが内側にこもってしまう傾向がある。そのため、機会があれば発表会に出ることをお勧めしたい。「客席から自分がどう見えるのだろう」と意識するだけで、動き方が変わるし、自分のための踊りから、見せるための踊りになっていく。バレエは舞台芸術だから、本来は常に客席の視点から動きを考えるべきである。

それから、バレエを始める大人の女性にとって気になるのは、「トゥシューズを履けるようになるのか?」だろう。結論から言えば、必要な時間は人それぞれだが、無理ではない。

バレエで使う靴は基本的に2種類。普段のレッスンで男女問わず履くバレエシューズ(布や革製の柔らかい上履きのような靴)と、女性が完全につま先立ちで踊るために履くトゥシューズ(つま先部分が固いボックス状になっている靴)がある

トゥシューズを履いて立てるようになるには、まず足の筋肉と骨を鍛えて、甲をアーチ状に出せるようにしなければならない。元々の骨格も影響するし、足が十分に強くなっていない状態で履くと間違いなく怪我をするので、バレエを始めて何年か経ったら、先生に相談してみると良いだろう。私の場合は、もともと甲が出やすい足をしていたので、3年目くらいで先生からOKが出た。

足の筋肉を鍛えるためには、床に敷いたタオルを足の指でたぐり寄せていく練習などが知られているが、これは足を痛める原因になると考える先生もいるので、まず練習方法も話し合うことをお勧めする。

愛用のトゥシューズ
愛用しているBLOCHのトゥシューズ。足の幅が広い人にもおすすめ

バレエを始めて変わったこと

バレエを長年続ける中で、体質が大きく変わった。もともと痩せ型で体力がなかったのだが、筋肉がついて体が丈夫になり、貧血気味だったのも治った。今では滅多に風邪も引かないし、いくら歩いても疲れないので、周りからは大層にも『不死身』と言われている(ただし旅行中など、一緒にいる人の疲労に気づけないことがあるので、注意したいところ)。猫背気味だった姿勢が良くなったのと、視力がものすごく悪いのに肩が凝らないのも、バレエをしているおかげだと思う。

一方でバレエには怪我もつきもの。発表会前に詰めて練習している中、骨折したり筋を痛めたりして舞台に立てなくなった仲間を何人も見てきた。幸い私は大怪我に見舞われたことはないものの、もう何年も外反拇趾に悩まされていて、テーピングしてレッスンしているが、現在はトゥシューズの練習は控えている。

私にとってバレエは、体だけでなく心の安定剤で、会社員時代にもどんなに救われたかわからない。仕事で嫌なことがあった日でも、バレエ教室でいつもの先生といつもの仲間と一緒に、音楽に合わせて体を動かしていると、汗と一緒に不快さが溶けていく。レッスン中は集中力も必要で、バーレッスンもセンターレッスンも、先生が練習のお手本を見せたり、口頭で説明したりするのを、まずはよく見聞きして順番を覚えないといけない。仕事のことは徐々に頭から抜けていって、レッスンが終わる頃にはすっきりとしている。

どの国や街に行っても続けられる趣味があるというのも、環境が変わった時の支えになる。ドイツのレッスンも、用語は日本と同じでフランス語だし、基本的なレッスン構成も同じである。語学が専門の身にとって矛盾のように聞こえるが、私がバレエを好きな理由の一つは、レッスン中は話さなくてよいから。いつも言葉にこだわって生活しているからこそ、そこから切り離された空間で、ただ自分の体と音楽だけを意識していると、素の自分に返れるような気がする。

大人からバレエを始めたからこそ、ぶつかる壁もある。私自身、子どもの時からバレエを習っている人を見ると、やはり「敵わない」と思うし、特に回転など直感的なセンスが必要な動きは、どんなに頑張っても越えられない違いを感じる。そんな時は、東京バレエ団の元ダンサーで、横浜でお世話になったT先生の言葉を思い出す。

周りと自分を比べない!比べるなら、昨日の自分と比べてください

発表会前、『白鳥の湖』の難しい振り付けが身に付かなくて焦っていた私は、ペアを組んでいた30歳年上(!)の女性の方ができていることにも落ち込みそうになっていたのだが、この言葉で我に返った。

向上心は大事だが、周りの人と元々の経験や素質が違うのは当たり前。上を見るとキリがなく、眩暈を起こしそうになるが、本当に考えるべきなのは、昨日より今日、今日より明日の自分の方が、1ミリでも前進していること。

コツコツ努力を積み重ねること、焦らないこと、しっかり自分と向き合うこと…。バレエからは、人生においても大切なことをたくさん学んでいる。

コメント

  1. かずまさ より:

    バレエを上達するための秘訣とは、、、
    私も長年悩み続けている課題ですが、結局は「辞めずに続ける」ことかなと、最近思うようになりました。
    子供の頃神童だった子もいつの間にか急に辞めてしまったり、怪我で踊ることを断念された方も沢山いらっしゃるかと思います。
    辞めたらそこで終わり、それでも辞めずに続けられている方は、皆さん、100%上達していきますよね✨
    思っている以上に上達のスピードはゆっくりだし、時間がかかりますが結局はそれを楽しめるかと最近思います♬

  2. Aki Aki より:

    かずくん、同感です!続けている限りは、ほとんど気がつかないような変化であっても、すこ〜しずつ上達していくはず。継続は力なり、ですね。
    外国語学習と同じで、最初の進歩は目覚ましくても、一定のレベルに達すると、急に横ばいになりますよね。そこで辞めてしまう人も多いと思います。
    私もバレエを始めたときは、こんなに上手くならないものだとは思っていなかったのですが。笑 だからこそ、成長を実感できたときの喜びは大きいです!

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