学生さん達の目線から
さて、無事にベルリン滞在を終えて、次の目的地へと去っていった日本人学生さん15名とO教授。私がこの3日間を振り返ってみて、時に感心して印象的だったのは、皆が『ホロコースト』という重いテーマを、ドイツという遠い国の遠い過去、と自分とは掛け離れたものとして捉えるのではなく、身近なところに引き寄せて考えようとしていた姿。
最終日の夜、ユースホステルのレクリエーション室にあった大きな卓球台をテーブル代わりにして、ミーティングをしたのだが、とても良い意見交換が行われた。
例えば、「日本の学校でもイジメが絶えないし、外国人に対する差別もある。少数派を疎外したり不当に扱ったりする、こういった気持ちの芽生えが、国家をあげた大量虐殺に繋がっていく可能性もゼロではないのではないか」、という意見。
それから、「自分も外見で人を判断していたことに気がついた」という声もあった。ラーフェンスブリュック強制収容所を見学しに行った日、ベルリンのある駅で電車を待っていると、ドイツ人と思われる中年の男性がO教授に声を掛けて、「次の電車はベルリン中央駅で停まりますか?」と聞いた。学生さんは、「明らかにアジア人とわかる人に聞くなんて…ドイツ語もわからないかもしれないのに」ととっさに思ったそうだが、O教授がドイツ語で答えているのを見て、はっとしたという。
私もよく街中で道を聞かれたり、知らないおじいちゃんおばあちゃんに世間話を振られたりする(もちろんドイツ語)。でも不思議なことに、「どの国から来たの?」と聞かれることはない。出身は気にしていないんだと思う
それから、今回の研修の様子をSNSにアップしたところ、ドイツ人の友達から「ありがとう」という反応をもらった、という学生さんがいた。ナチスという、ドイツの歴史の一番暗い部分を否定したり、隠したりするのではなく、「(私の国を理解しようとしてくれて)ありがとう」と友達に言えるメンタリティはすごい。そこで、「例えば外国人の友達が日本へ行って、第二次世界大戦について学ぼうとしているとき、私達はありがとうと言えるだろうか?」と自問した。
「日本には記念碑が少なすぎる」という意見も多かった。「気がつかないだけで実は結構あるはず」という声もあったが、ドイツの日本の根本的な違いは、国が主導しているか民間が主導しているか、という点にある。首都ベルリンの一等地に、あれだけだだっ広いスペースを割いて記念碑を作るというのは、国として生半可な覚悟ではない(もちろんホロコーストに関しては、犠牲となった国々からの圧力で、作らなければいけなかったという面もあるだろうが)。
その他にも、「国の監修で作った公立学校の歴史の教科書をそのまま鵜呑みにしていていいものか」といった問いも出て、この3日間でドイツの歴史について学んだ結果、日本の歴史についても考え直す機会になった。
ドイツで学んだことを、日本に帰ってどう活かすかが、次の課題ですね。みなさん、今の新鮮な印象を忘れないで!
ドイツ人ガイドさんの問い掛け
今回の研修旅行で出会ったドイツ人ガイドさんは、どの人も知識が豊富で説明もわかりやすく、仕事にやりがいを感じているのが伝わってきて素晴らしかったのだが、特にO教授と私の印象に残ったのは、記念碑ツアーを担当してくれた男性。
よく日本人のグループも担当するようで、日本にも旅行で行ったことがあるといい、時々日本語の単語を使って笑わせてくれた。しかしこのガイドさん、言葉の端々から、好意的であると同時にかなり批判的に日本を見ていることが伝わってくる。
例えば、ドイツの政治で右派が力を持ってきていることに対する意見を学生さんから求められると、強い危機感を持っていると話したうえで、「日本も二度と軍事力は持たないと言っていたのに、今は変わってきていますね」と鋭いコメント。ドイツと日本の歴史は似たところも多いからこそ、気になってしまうのだろう。
3時間にわたる記念碑ツアーで、ドイツの負の歴史と反省について学んだ後、「個人的に、最後に皆さんに伝えたいことがあるのですが」と彼は話し始めた。「日本人には、日本が犯した罪である南京事件の話題はタブーだと聞いています」。
ガイドさんは、「私はナチスがしたことについて、謝ることはできない」と言った。自分の祖先が犯した罪は、自分自身の罪ではないから。でも、「同じ過ちを繰り返さないために、事実をちゃんと後世に伝えていくことは、自分自身の責任である」と。
「ドイツが犯した罪について語っているとき、私は自分の祖父母のことを言っているのです」、こう彼はツアーを締めくくった。「それは日本人の皆さんにとっても同じことだと思います」。
……グサリと、胸に突き刺さる言葉だった。通訳しながら、O教授は感動して涙が出そうだったと言っていた。このガイドさんのような当事者意識を、私は持っているだろうか?自分と血の繋がった祖父母の罪を認めて、それを後世に伝えていくことを、自分の責任だと思って成し遂げられるだろうか?
ドイツという国、ドイツ人達から学べることは、山のようにあると実感した研修旅行だった。
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