ドイツ在住者が日本で国際結婚した話

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事実婚と法律婚の違い

突然ながら、5 年ほど前に知り合って一緒に暮らし始め、このブログにもよく登場するベルリーナー・Dと結婚した。ドイツではいわゆる事実婚も一般的だし、私は法律婚にこだわりも憧れもなかったのだが、歳を重ねるにつれ、「法的に結婚した方が事務的なメリットが多いのでは」と考えるようになった。

例えばドイツでは、もし一方が急に倒れて意識不明となった場合、医療方針の決定などパートナーの裁量は既婚か未婚かで変わると言われているし、死亡した場合の相続も結婚していればわかりやすい(もちろん、委任状や遺書を書いておくなど、結婚せずにこれらの問題を解決する方法はあるようだ)。

そんなわけで、ロマンティックなプロポーズなどのきっかけはなく、Dと話し合いの末に「何かある前に結婚しようか」と言う結論になった。

これから国際結婚を考えている人にしか需要がないトピックと思っていたが、役所の手続きからも日独の違いが見えてきて面白かったので、やはり記事にまとめることにした。

なぜ日本で結婚?

日本国籍の私ドイツ国籍のDは、ベルリン在住で、日本に住民票はない。普通に考えればドイツで結婚して、日本側にもそれを登録すればよいが、私たちは一時帰国の際に日本で婚姻届を提出することにした。

日本で婚姻届が受理されれば、その時点からその婚姻はドイツでも有効となる

ドイツで結婚しなかった理由の一つ目は、ベルリンでは戸籍役場(Standesamt)の予約が非常に取りにくいこと。こちらでは事前に日時を予約して出向き、婚姻手続きをすることになっているが、この予約を取るのが大変で、半年待ちも普通。私の友人でも、ベルリンではあまりに予約が取れないので、隣の州で結婚した夫婦もいる。その点で、日本ではいつでも役所に婚姻届けを提出できて、好きな日付を結婚記念日にできるのは大きなメリットだ。

二つ目は、日本では特に何も式をしなくていいこと。ドイツの婚姻手続きは簡単な式を兼ねており、戸籍役場の個室に通されて、担当者が一連の手続きを取り仕切ってくれ、誓いの言葉を交わし、希望すれば指輪の交換もその場で行う。その後に教会などでの結婚式を行わない場合には、婚姻手続きに家族や立会人(日本で言う婚姻届の証人で、兄弟姉妹や親友など)や友人も呼び、花嫁はちゃんとウェデングドレスを着ていくことが多い。一方で日本で必要なのは、書類を窓口に提出することだけで、両親すら呼ばなくていいので簡単である。

真ん中が空いた楕円形になっているテーブルを取り囲むようにゲストが座り、新郎新婦は真ん中に座って役場の人を待っている
数ヶ月前に参列した、ドイツ人の友人の戸籍役場での式

三つ目には、今後もし何かあった場合に、日本法の方が離婚が簡単。3組に1組が離婚すると言われるドイツだが、離婚には時間と労力が掛かり、まずは一年の別居期間が必要で、それから弁護士を立てての裁判となる。離婚届一枚で協議離婚できる日本とは大きく違う(ただし基本的には、婚姻した国ではなく離婚時に居住している国の法律が適用されるため、日本に拠点を移さない限り日本法で離婚できるとは限らないようだ)。

四つ目には、日本で結婚する方が提出書類が少ないと思ったから。実はこれは大きな間違いだったので、次の事項で詳しく記してみたい。

予想外に長い道のり

皆さんご存知の通り、日本での結婚は非常に簡単。日本人同士の場合、記入した婚姻届身分証明証を持って役所の窓口に行くだけ。

一方が外国人の場合には、それに加えて、一般的に以下3点が必要となる。
婚姻要件具備証明書(その人の国の法律上、結婚に問題がないことを証明する書類)
上記書類の日本語訳文
身分証(パスポート)の日本語訳文

市区町村によって違うようだが、私たちが婚姻届を提出予定だった市役所に事前にメールで問い合わせたところ、「日本語訳文は誰が作成してもOK」とのことで、私が作成できることがわかった。ということは、役所から新たに入手しなければならないのは①だけで、楽勝だ、と思ったのである。

逆のパターンで、日本人の私がドイツで結婚しようとすると、日本から色々な書類を取り寄せることになります

しかし、実はこの①を入手するのに、複数の書類が必要だったのだ。Dはまず出生登記簿謄本(Beglaubigte Abschrift aus dem Geburtenregister)というものを戸籍役場に申請して取り寄せた。

それから改めてこの「婚姻要件具備証明書」の申請書を見てみると、結婚相手である私の情報の記入も必要なことが分かった。そして役所に必要書類について問い合わせると、驚きの回答が。なんと私の戸籍謄本と、そのアポスティーユ(公文書であることの証明)と、認証翻訳(ドイツの公認翻訳士の資格を持つ人が作成した翻訳)も必要だというのである。

Dが結婚できる状態にあることを証明する書類だから、ドイツ側で完結すると思っていたら、私の戸籍謄本が必要なんて…!

仕方がなく私の日本の家族に連絡し、戸籍謄本を代理で入手してもらい、更にそれを日本の外務省に郵送しアポスティーユを取ってから、ドイツに送ってもらった。そのアポスティーユ付き戸籍謄本の翻訳を、ベルリンの公認翻訳士にお願いした。

これでようやく揃った「婚姻要件具備証明書」の必要書類をベルリンの戸籍役場に郵送した後、面談時間の連絡がメールであったので、Dが私たち二人のパスポートを持って出向き、無事に受け取ることができた。

あれこれと書いたが、つまりは、日本で国際結婚する場合でも、私の戸籍謄本など、ドイツで国際結婚する場合とほぼ同じ書類が必要だったのだ。日本から書類を取り寄せるのに数週間掛かったのと、例のごとくドイツの役所の対応は遅いので、結婚する半年前に準備を始めてちょうど間に合った

日本の役所の素晴らしさ

今回、ドイツの役所と、日本の役所にメールで何度も問い合わせながら実感したのは、「やっぱり日本の役所は素晴らしい」ということ。どんな細かい質問にも丁寧に回答してくれ、婚姻のために必要な書類がドイツで揃った後、まずメールでの事前チェックにも対応してくれたので、安心して日本に渡航することができた。

一方で、Dが出生登記簿謄本をベルリンで申し込んだとき、しばらく音沙汰がなかった。心配になった私たちが、メールか電話で問い合わせてみようかと戸籍役場のHPを見ると、なんとこんな記載が。

現在問い合わせが集中しています。問い合わせが増えると更に作業が遅れるため、連絡を控えてください。

こんな牽制をしてくるとは、さすがドイツの役所…!こう書かれては黙って待っているしかない。結果的には、無事に郵送で数週間後に書類が届いた。

そして証明書の手数料も日本の方が格段に安く、戸籍謄本も450円だし、外務省のアポスティーユは無料。ドイツの出生登記簿謄本は12ユーロで、婚姻要件具備証明書はなんと90ユーロも必要だった。

日本人夫婦との違い

さて、日本で結婚しても、日本人同士の場合とは異なることが幾つかある。まずは夫婦別姓が基本となること。別途届け出れば一方の姓に変更も可能だが、私たちは別姓を希望していたので、そのままである。

そして、ドイツでは存在しないものだが、日本の戸籍も面白い。戸籍制度では、男女が婚姻することで新たに戸籍が作られ、子どもが生まれると子どもの情報が追加され、子どもが結婚するときにその戸籍を出て配偶者と新しい戸籍を作る、というサイクルになっている。

しかし、外国人には戸籍は作られない。私は両親の戸籍から除籍されて、自分が筆頭者の新たな戸籍が作られたわけだが、そこにDが入るわけではなく、私が外国人(氏名・生年月日・国籍)と婚姻した事実が記載されるだけである。Dは少しがっかり。

ぼく、備考として載るだけなんだね…

ちなみに、日本で婚姻届が受理されれば、その時点から婚姻はドイツでも有効とはいえ、ドイツ側には自動的に通知されない。新しい戸籍謄本にアポスティーユと認証翻訳を付けたものを持って、戸籍役場でドイツの婚姻登記簿(Eheregister)に登録してもらうか、住民局で住民登記簿(Melderegister)の情報を既婚に変更してもらう必要がある。

別姓を選んだ私たちは、結婚してもほとんど変化はなく、私はEUの永住権をすでに持っているので、いわゆる配偶者ビザを申請する必要もない。所得税申請の際に大事な税金クラスが独身時から変更となるくらいである。

最後に、日本で注文した結婚指輪の話を。オーダーメイドで頼んだため2〜3ヶ月掛かるということで、まだ受け取れていないのだが、日本ならではのサービスがあった。指輪の内側に入れる刻印で、定番の結婚記念日や名前の他、家紋も彫れると聞いたのだ。

確かに私の一家には家紋があるが、当然ながらドイツ人のDにはない。かといって私の家紋だけ彫ってもらっても一方的だし…と思っていたところ、なんとDは、

ぼく、AIで家紋作ってみる

と、オンラインで人工知能に「こんな感じの家紋をこのサイズで作ってほしい」と指示し、何パターンか良さそうなデザインを出してきた。私も調べてみたところ、正式に家紋を管理・登録するものはなく、自分で考案してよいらしい。

Dが選んだオリジナル家紋のデータを指輪のお店に持っていき、これを彫ってもらいたいのですが…とダメ元で相談すると、一般的な家紋ではないが特別に対応可、と言ってもらったのでお願いした(Dの家紋のモチーフになっているのはリング型のドーナツである…)。

書類集めの煩雑さでは、結局ドイツで結婚するのと変わりなかった感じですが、日本で手続きした後に和装で写真撮影も行って、よい記念になりました

和風の壁の横に並んで立っている和装の私とDの後ろ姿
秋晴れに恵まれた撮影日

日本考察
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