私とAyamiさんの出会い
外国で暮らしていると、日本人という共通項のおかげで、まったく違う専門や背景を持った人と出会うことが多々ある。2016年にハイデルベルクで知り合ったAyamiさんもその一人。
私のアパートと同じ通りにオープンした日本食レストランに行ったところ、サービスを担当してくれたのがAyamiさんだった。まだ日本人客が珍しかったこともあって話が盛り上がり、その場で連絡先を交換して、よく一緒にお茶したり、泊りがけで夜通し語り合ったりする仲になった。
やがてAyamiさんも私もハイデルベルクを離れることになったが、それからも年に一度はドイツ国内で会っている。
Ayamiさんは私の友人達の中でも特にカラフルな経歴を持った人である。元々は声楽家で、指導者として多数の生徒も育て、日本の某有名劇団のミュージカルにも数年間出演していた。その後はオーストリアを経てドイツに移り、ライプツィヒ歌劇場で舞台演出家としての研鑽を積む。
ところが色々な事情が重なって、舞台芸術から一転、ドイツ南西部のワイナリーが経営するレストランで仕事を始めることに。初めての接客業に悪戦苦闘しながらも、ドイツワインと食の魅力に目覚めたAyamiさんは、ワインの勉強も始めてサービスのエキスパートとなっていく。
そんなAyamiさんが、なんと独立してレストランを開店することになった。一緒に開店準備をしているのは、Ayamiさんがドイツで知り合った腕の良い料理人で、公私とものパートナーであるHideさん。サービスはAyamiさんが、キッチンはHideさんが切り盛りすることになる。
事務手続きやメニュー作りに追われているお二人のところに数日泊めていただいて、示唆に富んだお話を色々と伺った。ドイツで働くということ、日本人であるということ、ワインの村で開業するということ、アーティストとしての経験を活かすということ…。
本ブログ初のインタビュー形式でお届けする。
料理人Hideさん
Ayamiさんはもう長年ドイツ在住ですが、Hideさんはコロナ禍の2021年に渡独したのですね
はい、日本ではレストランが閉まってしまい仕事できなくなりました。ヨーロッパの方が早くコロナが収束しそうだったので、こんなことでもないと日本を出る機会もないかと思って、仕事を見つけてドイツへやってきました。ワイン街道にあるダイデスハイムの日本食レストランで、料理人を募集していたんです
でも元々はフランス料理が専門なんですよね?
そうです。僕は岩手県出身ですが、調理師学校でフランス料理を専攻しました。水戸のレストラン・オオツで基礎を固めてから、東京の有名店ロブションに勤め、都内レストランで料理長をしていたこともあります。料理人歴はもう23年くらいです
ワインの村メッダースハイム
今お二人が開店準備をしているところは本当にのどかな場所ですね…!ドイツ南西部のラインラント=プファルツ州にある、メッダースハイムというワインの村ですが、人口約1300人と聞きました。ベルリンからだと電車で6時間は掛かります
すごい田舎ですよね(笑)
私はドイツ在住13年くらいですが、これまでライプツィヒとかハイデルベルクとか、観光地として知名度がある町に住むことも多かったので、こんな静かなところは初めてです。私とHideの前の職場があったダイデスハイムも、ワイン畑に囲まれた小さな町ですが、世界的に有名なワイナリーがいくつもあるので、フランクフルトなど大きな町からもお客さんが絶えず賑やかでした。それと比べれば、メッダースハイムは本当に田舎の村という感じですね
そしてお二人のレストランが入ることになる建物が、また歴史的ですごいですよね!ドイツの伝統的な木組みの家です
入居する前は「かわいい〜!」ってトキめいたけど、入ってからはやっぱり古くて大変です。歩くと床は軋むし、修理しないといけない部分も多いし…
ネガティヴな話しかないな(笑)
いやいや(笑) そうは言っても素敵な建物です。村に3軒しかない文化財の一つで、18世紀に建てられたそうです。手工業の工場、パン屋、ワイナリー、レストランと用途は変わっていったそうなのですが、レストランとしては私たちが3代目です。お店の名前『Zur Traube』もそのまま引き継ぐことにしました(Aki註:Traubeは葡萄という意味)
レストラン開店に至るまで
どういう経緯で、この村でレストランを継ぐことになったのか、簡単に教えてもらえますか?
この建物の目の前に人気ワイナリー・Hexamerがあるんですが、昔そこで研修をしていたソムリエ仲間の紹介でした。「Hexamer経営者のドイツ人夫妻が向かいの家を買い取ることになり、そこに住んでレストランを始めたい人がいないか探しているよ」と、急に電話をくれたんです。ちょうど私たちも、独立して自分のお店を開くことを考えていたタイミングでした
モーゼル川沿いの町にある他の物件にほぼ決めていたんですが、付近に美味しいワインが見つからなくて。そうしているうちにメッダースハイムから話をもらって来てみたら、この辺りのワインが美味しいのですっかり気に入ってしまいました。地元の美味しいワインを出せるレストランにしたかったので
メッダースハイムはワインの村だから、ここのレストランも1代目は飲み屋のような感じだったそうです。2代目はドイツフレンチで、1つ星レストランにいたこともあるドイツ人シェフが、高齢になるまで美味しい料理を提供していました
そこを今度はお二人が継ぐわけですね。勤めていたレストランを辞めて独立することに、恐さはありませんでしたか?
それが、不思議なことに全然ないんですよね〜。私は独立するという特別感もなくて。流れでここまで来た感じです
僕も特に恐さはなかったです。中年だし失うものがないからかな(笑) 美味しい料理を作って出すだけです
ドイツの田舎に現れた日本人
日本人のお二人を村の人達はどう迎え入れてくれましたか?
目の前のワイナリー・Hexamerの経営者や従業員をはじめ、よくしてもらっています。村の人達もこの建物でレストランが再開されることを心待ちにしてくれているようです
私とHideの前職の日本食レストランに、ここの元村長ご夫妻がお客さんとして来ていたこともあって、元々少し繋がりはありました。Hexamerの経営者は村の議員でもあるのですが、開業にあたっての煩雑な事務手続きなど、何から何までサポートしてくれて本当に助かっています。目の前に住んでいるので、お互いに料理やワインを持って行き来したり、「あっ、お砂糖きらしてた」ってワイナリーにもらいにいったり、長屋の暮らしのようです(笑)
私もHexamerのご夫妻とお話しさせてもらいましたが、AyamiさんとHideさんが日本人だったのは偶然、と言っていました。新しいレストランのコンセプトはジャパニーズフレンチということでしたね
はい、フュージョン・キュイジーヌになります。僕の専門であるフレンチをベースにして、色んな国の料理の要素を取り入れますが、日本の比重を大きくする感じです。今はグローバルに見ても和食ブームで、色んなものと組み合わせされていますよね。もちろん、料理に合うワインも提供しますよ
ナーエ地方のワイン
ワインはお二人のレストランの鍵になりますね!Hideさんはソムリエの資格もお持ちなのですか?
はい、日本で取得して、世界中のワインを扱ってきました。新しいレストランでは、もちろんドイツワインが中心になりますが、フランスワインなども置くつもりです
Ayamiさんはドイツワインが専門ですね。ここメッダースハイムはナーエ地方に属しているということですが、ナーエのワイン、お二人はどう思われますか?
私はドイツ・ワイン街道があるプファルツ地方に長くいましたが、ナーエのワインはまた別物です。特に甘口の白ワインが本当に美味しくて、「こんなの飲んだことない!」と新境地を開いてしまった気持ちです…甘口なのに酸味もあって爽やかで、色んな料理によく合います
私も何種類か飲ませてもらいましたが、特にアイスワイン(極甘口のデザートワイン)が衝撃的な美味しさでした…!
日本ではドイツワインを飲む機会が少なかったのですが、プファルツ、モーゼル、ザールなど、地方によって同じ品種でも味がまったく違うことに驚きました。ナーエのワインはリースリング本来の香りが強く出ていて、酸味と凝縮感が素晴らしいです
インタビュー後編では、舞台芸術とレストランの意外な共通点や、二人の目標など、踏み込んだ内容をお届け!
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