ドイツ人にとってのトルコ
旅行好きで知られるドイツ人が繰り返し行く旅先の一つとして、トルコがある。例えば私の夫の祖父母は、80代ながら元気で、トルコ南部のリゾート地にある行きつけのホテルに年2回ステイしている。
2026年のアンケート調査によれば、ドイツ人に人気の旅先として、トルコは第5位にランクイン。1位はドイツ国内、2位はスペイン、3位はイタリア、4位は北欧諸国なので、EU圏外としてはトップだ。
トルコは地理的にもドイツから近い。例えばベルリン・イスタンブール間は飛行機で約3時間で、時差も1時間のみである。
東西文明の交差点となった歴史的・文化的な面白さ、カッパドキアの奇岩に代表されるユニークな風景、世界三大料理に数えられる豊かな食文化と、魅力は尽きない。ドイツと比べて物価も安いし、ドイツ人が好みそうな海辺のリゾートも多い。

私は日本に住んでいた18年ほど前にも、トルコを周遊したことがあるが、先日初めてドイツからトルコに行ってきた。同行者は、義理の母である在独ロシア人・E。生後6ヶ月の娘も連れて行ったので、女子3世代の旅となった。
トルコがロシア人の集合場所に
さて、ここからが本題。トルコは現在、ロシア人が本国や外国から集まる場所になっているという。ドイツ人にとってのトルコのイメージはなんとなく持っていたが、ロシア人にとってのトルコという存在については考えたことがなかった。
2026年現在、西側諸国がロシアに科している制裁措置に、トルコは参加していない。日本も含めて、ロシアとの直行便が運休となっている国が多い中、ロシア・トルコ間の飛行機は引き続き運行されている。そして、ウクライナ戦争の影響から逃れるため、トルコに移住したロシア人も多いという。
私の義理の母・Eといえば、ロシアのウクライナ侵攻に反対し、ベルリンで難民受け入れのボランティアとして奔走して、ドイツのルポルタージュ番組でもインタビューされた人である。(詳しくは以下の記事をどうぞ)

Eには、モスクワで暮らしている弟がいる。その一家は反戦派で、ウクライナ侵攻開始後、何かあった時のために、トルコ南部のリゾート地・アンタルヤでアパートを購入した。本格的な移住も検討していたが、仕事や子どもの教育のことを考えて、ひとまず拠点はロシアに置いたまま、年に数回アンタルヤで休暇を過ごしている。

ドイツ・ロシア間の行き来が難しくなってしまったため、Eと弟一家は毎年アンタルヤで集合するようになった(今回は私と娘もベルリンから同行したが、Eの弟一家は都合が付かなくなってしまったので、Eと3人だけで1週間アパートに滞在させてもらった)。
E曰く、「本国のロシア人と外国のロシア人にとって、トルコはちょうどいい集合場所になっている」とのこと。
行きの飛行機で私の後ろに乗っていた、赤ちゃんを連れたロシア人の若い女性も、アンタルヤのホテルでロシア在住の両親と会う予定と話していた。彼女の隣に座っていた年配のドイツ人夫婦との会話が私の耳にも部分的に入ったのだが、ドイツで暮らしているのは2022年からとのことだったので、やはり戦争の影響だろう。
「リトル・ロシア」
ベルリンから直行便で4時間で到着した、トルコ南西部のリゾート都市、アンタルヤ。城壁に囲まれた旧市街、古代ローマの歴史的遺跡、地中海沿岸のビーチもある、トルコ有数の観光地でもある。

私たちが訪れた10月はベストシーズンの一つで、日中は気温25〜30度と夏日だが、朝晩は涼しくなり、水温は高いので海で快適に泳ぐこともできる。

Eの弟一家が所有するアパートがあるのは、土産物屋が立ち並ぶ旧市街から路線バスで30〜40分離れたところにある、リマン(Liman)地区の住宅街。興味深いことに、ここが「リトル・ロシア」と呼べるような、ロシア系住民が非常に多いエリアだった。

ロシア料理店、ロシア人経営のカフェ、テイクアウト専門のロシアの惣菜屋などがあり、私はEと一緒にロシア料理をよく食べたので、トルコにいながらロシアにいると錯覚しそうなほど。
普通のスーパーや地元の市場に行っても、聞きたいことがあれば、誰かしらロシア語を話せる店員がいることが多く、そうでなければEはロシア系と思しき他のお客さんに声を掛けていた。地元トルコの人は暗い髪色が多い中で、ロシア系の人は明るい髪色が多いし、服装もどこか違うので、当たりをつけるのは容易だ。
英語よりもロシア語が通じることの方が圧倒的に多く、私はEについていくのみ。ロシアではなく旧ソ連圏の国々の出身者もいたが、やはり共通語はロシア語である。

リマン地区からバスで旧市街に行こうとした時には、Eは「バスの運賃はチャージ式カードで払えるんだけど、手持ちのカードの残高がわからなくなってしまって、チャージもどうすればよかったか…。とりあえずバス停まで歩いて行って、ロシア人ぽい人がいたら聞いてみるわ」と言っていたのだが、最寄りのバス停に着くと、本当にそれらしき女性が立ってバスを待っていた。
ブロンドの髪、体のラインに沿ったミニ丈のワンピース、高級そうなサングラス、赤い口紅、ヒールのサンダルと、やはりぱっと目を引く。Eがロシア語で声を掛けると、親身になってバスの乗り方やその他のことまで色々と教えてくれ、何かあったら連絡するようにと、携帯電話番号まで交換していた。

私が一人でトルコ料理レストランに行った時にも、テイクアウトをお願いしようとしたら、店員さんから「あなた、ロシア語?英語?」と聞かれて、「明らかにアジア人の私でもロシア語話すように見えるんだろうか」と一瞬びっくりしました。笑
このようにロシア人(ロシア語)コミュニティが根付いている地区だったが、トルコであることには違いなく、長く生活するとやはり色々な大変さが出てくるだろう。私たちがいたアパートの管理人もトルコ語オンリー話者で、スマホで翻訳しながら何とかコミュニケーションした。
E曰く、晴天の日が多いリゾート地のアンタルヤは元々ロシア人に人気があったそうで、それがウクライナ侵攻開始後に加速したのだという。もちろんロシア人が誰でもトルコで不動産を買えるというわけではなく、裕福層が中心。私がリマン地区で見かけたロシア系の人々も、見るからに美意識が高く、整った身なりをしている人が多かった。
ロシア人にとってのトルコという、意外な存在。自分の出身国が戦争を仕掛けて国際的に非難されている中、この第三国が移住先や、本国と外国の身内が集合する場所になっている…。もし自分がそういった状況になったらどうだろうと考えさせられる、不思議なアンタルヤ滞在となった。
地元のバスでのドラマ
ここからは余談になるが、20代前半の頃にトルコを訪れた際には気が付かなかったことがある。トルコの人たちがびっくりするくらい赤ちゃん好きなのだ。
私が生後6ヶ月の子どもを抱っこ紐に入れて歩いていると、街中で気がついた人はほぼ例外なくニコッと笑顔になり、娘に笑いかけて手を振ってくれた。特に滞在していたリマン地区では私以外にアジア人を見掛けず、ロシア人のEと一緒に行動していたので余計に目立ったのもあるかもしれない。
ベルリンでも、道すがらや路面電車の中で、「赤ちゃんかわいいですね、何ヶ月ですか?」と声を掛けてもらうことは時々あるのだが、アンタルヤのように会う人会う人が目をハートにする勢いで「赤ちゃんかわいい!」とこちらに寄ってくるようなことはない。
小さなレストランでもちゃんと子ども用のハイチェアがあったり、ショッピングセンターには授乳・おむつ替え室が完備されていたり、赤ちゃん連れに優しい環境が整っている。

何よりも私の印象に残っているのは、バスの中での出来事だ。赤ちゃんを抱っこした私が混雑した路線バスに乗ると、色んな人が助けようとしてくれた。
ある時は、一番前に座っていた80歳くらいのおじいさんがすぐに立って席を空けてくれた。私は思わず「いやいやいや」と遠慮したのだが、腕を掴まれて、どうしても座れと言わんばかりだったので、ありがたく座らせてもらうことに。私たちの横に立ったおじいさんは、眠そうにしている娘の顔を見てはニコニコと小声でトルコ語で話し掛け、最後にまた私たちに笑顔を向けてから降りていった。
その後にはまた別のおじいさんが私たちの横に立って、抱っこ紐からプラプラ出ている子どもの足を撫でながらニコニコしていた。

知らない人の子どもに触るというのは、日本やドイツでは基本的にマナー違反だと思いますが、トルコではもっとおおらかな印象を受けました
またある時は、バスの中で一悶着あった。夕方の大混雑時にバスに乗ると(そもそもバス停で待っていた人全員は乗りきらず、赤ちゃんを抱いている私を見て他の人たちが優先的に通してくれた)、ぎゅうぎゅうになりながら隣に立っていた中年のトルコ人女性が、私たちを守るように動きつつニコニコずっと娘に話し掛けてくれた。
次のバス停で席が一つ空いたのを目ざとく見つけたその女性は、あそこに座れ、と私に合図してくれたのだが、私が他の乗客をかき分けながらそちらに向かおうとしている間に、他の若い女性が座ってしまった。
私の隣にいた女性はそれに激怒。大声でその若い女性を罵倒し始める(トルコ語なので詳細は不明)。若い女性も何やら色々と言い返している(同じく詳細は不明だが、足が痛いとかいう理由かなと推察)。一触即発の空気に包まれ、他の乗客たちも注目する中、この騒ぎの原因である私はアタフタ。
どうしてもその若い女性が立とうとしないことを察した中年の女性は、諦めて、私の腕を引きつつ、他の乗客に「この親子のために席を空けろ」と交渉を始めた。結果的に10代の若い女の子が私に席を譲ってくれ、女性は満足げに頷いて、自分は後ろの方に移動して最後まで立っていた。
見ず知らずの私と娘のために、自分のことのように奮闘してくれるとは…。トルコ語がまったくわからず、英語でしか女性に感謝を伝えられなかったのが悔やまれた。
また別の時は、Eが自分と私の分の料金をチャージ式カードで払おうとしたところ、1人分しか残金がなかった。バス内ではチャージできないので困った顔をしていると、赤ちゃんを抱いている私を見た男性の運転手は、「オーケー!」とそのまま通してくれたのだった。赤ちゃんボーナス、おそるべし。
歴史的な背景もあり、トルコといえば超・親日的ということでも知られているので、それもあったのかもしれない。どちらにしても、赤ちゃんを抱いているとどこに行ってもチヤホヤされ、スターになったような気分だった。



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